室温でゼロ抵抗電流を運ぶ量子物質の理論設計に成功

新規トポロジカル物性現象と量子機能の発見

2013.06.26


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) の研究グループは、室温を超える高温でもゼロ抵抗電流を運ぶことが可能な物質の設計に成功した。この物質は大きなスピン軌道相互作用を持ち、スピン偏極したエッジ量子状態に特徴づけられる新しいトポロジカル状態を示す。スピン偏極は電場調整で制御でき、スピントロニクスにも役立つ。

概要

  1. 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (WPI-MANA) (拠点長 : 青野 正和) の古月 暁主任研究者、梁 奇鋒 (リャン チフォン) MANAリサーチアソシエート、呉 龍華 (ウー ロンファ) NIMSジュニア研究員らのグループは、室温を超える高温でもゼロ抵抗電流を運ぶことが可能な物質の設計に成功した。この物質は大きなスピン軌道相互作用を持ち、スピン偏極したエッジ量子状態に特徴づけられる新しいトポロジカル状態を示す。スピン偏極は電場調整で制御でき、スピントロニクスにも役立つ。
  2. トポロジカル絶縁体はスピン軌道相互作用がもたらす新しい量子状態であり、近年その物質探索が物性物理及び物質科学の最先端になっている。この物質はサンプルのバルク部分では絶縁的であるが、サンプルのエッジに抵抗の伴わない電流を運ぶ量子状態が存在し、新規量子機能が期待されている。しかし、これまでは極低温でしか見つかっていない。また、エッジ電流の中でスピン上向きと下向きの電子が混在して、このままではスピントロニクスに応用できないという問題があった。
  3. 研究グループは、電子系の対称性解析や第一原理計算により、ペロフスカイト構造を持つ反強磁性絶縁体に金の化合物一原子層を挿入し (図1参照) 、垂直方向にゲート電圧を印加することによって、新しいトポロジカル状態が実現できることを理論的に明らかにした。トポロジカル物質の探索及び新規量子機能開発の新しい方向を示す研究成果である。
  4. 本研究成果は6月21日に物理学協会 (英国) の論文誌New Journal of Physics (オンライン版) に掲載された。

「プレス資料中の図1: 新規トポロジカル絶縁体の模式図。母物質は結晶[111]方向に成長させたペロフスカイト酸化物LaCrO3である。クローム原子同士は全ての隣接するものとは逆向きに配列するG型反強磁性秩序を持つ。挿入された金原子はバックルした蜂の巣層に位置し、垂直方向に電圧を掛けることで新規トポロジカル量子状態が得られる。」の画像

プレス資料中の図1: 新規トポロジカル絶縁体の模式図。母物質は結晶[111]方向に成長させたペロフスカイト酸化物LaCrO3である。クローム原子同士は全ての隣接するものとは逆向きに配列するG型反強磁性秩序を持つ。挿入された金原子はバックルした蜂の巣層に位置し、垂直方向に電圧を掛けることで新規トポロジカル量子状態が得られる。