色素増感太陽電池の色素吸着構造を分子レベルで解明
色素吸着構造制御に成功
2013.10.10
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS ナノ材料科学環境拠点のハイブリッド太陽電池グループは、色素増感太陽電池の分子/電極界面近傍で生じる特異な吸着構造の変化と光電流の関係について、高エネルギー加速器研究機構における放射光軟X線実験で明らかにしました。
概要
- 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) ナノ材料科学環境拠点 (拠点長 : 魚崎 浩平) 、ハイブリッド太陽電池グループの本田 充紀ポスドク研究員 (現独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 任期付研究員) 、柳田 真利リーダーは、色素増感太陽電池の分子/電極界面近傍で生じる特異な吸着構造の変化と光電流の関係について、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) における放射光軟X線実験で明らかにしました。
- 色素増感太陽電池は低コストかつ高フレキシビリティーの性質を有することから次世代太陽電池の一つとして注目されています。実用化するためには現在得られている発電効率を超えるさらなる光電変換効率向上 (特に光電流の向上) が必要です。色素太陽電池では色素が光吸収と電子授与を行うことから、光電流は色素の吸着構造に依存すると考えられ、変換効率の向上には、実デバイス下における吸着構造の解明とその制御が必要となります。
- 今回当研究グループは、色素分子の電子構造を知ることが出来るX線光電子分光およびX線吸収端微細構造法を用いて、ルテニウム金属錯体色素N719の吸着構造を分析しました。通常、N719色素はカルボキシル基 (COOH基)を介してTiO2表面に吸着する性質があります。しかし、本研究の結果、NCS- (チオシアナート配位子) が TiO2と強く相互作用していることが明らかになりました。これまでの吸着構造モデルでは、このような吸着構造をとることは考慮されておらず、光電流を妨げる原因になっていた可能性があります。
- さらに、このNCS-とTiO2の強い相互作用は、D131色素 (短波長領域で強い光吸収特性を示す色素で、共吸着剤として広く用いられている) を同時に吸着させると消失することが分かりました。本成果を設計指針とすることで最適な吸着構造を制御した結果、太陽電池の可視光領域の外部量子収率が大きくなる (太陽光照射下の光電変換効率は約0.3 %向上する) ことが分かりました。
- 今回の研究成果は、文部科学省の委託事業「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プログラム」に基づいたナノ材料科学環境拠点による成果としてアメリカ化学会誌「Journal of Physical Chemistry C, 2013, Vol. 117, 17033-17038 (DOI: 10.1021/jp404572y)」で8月22日に掲載されました。