資源開発のための高性能オイル吸着材の開発
工業用高分子をナノ多孔化する新製法を発見
2013.10.22
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS 先端的共通技術部門 高分子材料ユニットの研究者らは、石油随伴水などのオイル成分を含んだ汚染水を低コストで浄化できる高性能オイル吸着材を開発した。新しいオイル吸着材は、資源開発の現場において、省エネルギーで経済的な水浄化システムの実現を可能にする。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長 : 潮田 資勝)先端的共通技術部門 高分子材料 ユニット(ユニット長 : 一ノ瀬 泉)の分離機能材料グループの研究者らは、工業的に広く使用されているエンジニアリングプラスチックを原料として、直径が10ナノメートルの細孔を持つナノ多孔体を作製することに成功、高性能なオイル吸着剤を開発した。
- 石油や天然ガスの開発では、オイル成分を含んだ大量の汚染水が生じており、環境汚染を防止するための低コストで効率的な水処理システムが求められている。汎用性高分子のナノ多孔化技術は、高性能のオイル吸着材の製造方法として期待されてきた。しかし、これまで方法では、ナノレベルの微細な高分子多孔体は形成できず、吸着材としての高性能化を阻んでいた。
- 工業的な高分子多孔体の製造法には、高分子溶液の相分離現象が広く利用されてきた。物質・材料研究機構では、深冷下での高分子と溶媒の相分離現象に着目し、エンジニアリングプラスチックの内部に溶媒のナノ結晶を形成させることに成功した。このナノ結晶を独自の方法で除去することで、極細のナノ細孔が連続的に繋がった高分子ナノ多孔体を形成することに成功した。開発された高分子ナノ多孔体は、シートやペレット、ファイバーとして得ることができる。また、特定の条件下では、半径1.9ナノメートルの微細なナノ細孔を形成することができた。
- 得られた高分子ナノ多孔体は、1グラム当たり300 m2を越える著しく大きな表面積を有し、水中のオイル成分を効率的に吸収できる。石油随伴水に含まれるクレゾールというオイル成分の吸着実験では、1グラム当たり260 mgを越える吸着量が確認された。さらに開発された吸着材は、高温にすると吸着したオイルを脱着する。このため、吸着材として繰り返して利用することができる。また、二酸化炭素などのガスの吸着特性にも優れており、ガス分離材料としての応用にも期待が持たれる。
- 本成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」 オンライン版で日本時間平成25年10月22日18:00 (現地時間22日10:00) に公開される。(論文 : S. Samitsu*, R. Zhang, X. Peng, M. R. Krishnan, Y. Fujii, I. Ichinose* “Flash Freezing Route to Mesoporous Polymer Nanofibre Networks” Nature Communications 4:2653 | DOI: 10.1038/ncomms3653)