“金”を含む新しい超伝導体SrAuSi3を発見

空間反転対称性の破れた超伝導物質の開発

2014.03.25


独立行政法人 物質・材料研究機構

独立行政法人物質・材料研究機構 (NIMS) 超伝導物性ユニット・強相関物質探索グループの磯部雅朗グループリーダー、吉田紘行博士研究員、表界面構造・物性ユニットの木本浩司ユニット長、理論計算科学ユニット・材料特性理論グループの新井正男主幹研究員、室町英治理事からなる研究チームは、主構成元素として“金”を含む新しい超伝導体SrAuSi3を合成発見しました。

概要

  1. NIMS (理事長 : 潮田資勝) 超伝導物性ユニット・強相関物質探索グループの磯部雅朗グループリーダー、吉田紘行博士研究員、表界面構造・物性ユニットの木本浩司ユニット長、理論計算科学ユニット・材料特性理論グループの新井正男主幹研究員、室町英治理事からなる研究チームは、主構成元素として“金”を含む新しい超伝導体SrAuSi3を合成発見しました。
  2. 超伝導現象を電子論的に説明することに初めて成功したBCS理論により、クーパー対 (=2つの伝導電子からなる対) の形成は、対称性の高い空間に於いてのみ実現される、というのがこれまでの常識でした。ところが近年、これに反して、対称性の低い空間 (反転対称性3) を持たない結晶構造の物質) でも超伝導が現れることが実際に見いだされました。そして、その未知の電子状態と未解明の発現メカニズムに対して、多くの凝縮系物理学者の関心が集まっています。このような、結晶構造に反転対称性が無い、空間的に非対称な系で起こる超伝導のことを「空間反転対称性の破れた超伝導」と言います。理論的には、そのような系では、クーパー対の波動関数は偶関数、奇関数のどちらか (パリティ) に固定されるのではなく、「パリティ混合超伝導」と呼ばれる、異常な電子状態が発現することが示唆されています。現在、この理論予想を実験的に検証するため、多くの試みが為されています。同時に、そのような新しい物質を見いだし、研究の舞台を拡げることも、たいへん重要と考えられています。
  3. 今回、研究チームは、結晶構造に反転対称性の無い新物質の探索を行いました。その結果、新しい化合物SrAuSi3を合成することに成功し、その新物質が絶対温度1.6度 (摂氏 –271.55℃) の低温で超伝導を示すことを発見しました。本物質は、BaNiSn3型構造 (一般化学式、AMX3 (M = 遷移金属元素) ) と呼ばれる、一連の化合物群に属します。この系の電子構造を決める最も重要な元素は、遷移金属元素Mです。空間反転対称性の破れた超伝導では、スピン・軌道相互作用が強く働くことが重要であり、それは原子の重さ (原子量) に強く依存します。これまで、M元素として、比較的重い、ロジウム (Rh) 、イリジウム (Ir) 、白金 (Pt) などを含む化合物が知られており、空間反転対称性の破れた超伝導の代表物質として盛んに研究されていますが、今回、高圧合成法をを用いることで、さらに重い原子である金 (Au) を含む同型の化合物を合成することに初めて成功しました。 新物質 (SrAuSi3) の電子構造を理論計算解析した結果、従来物質のものとは、かなり異なることが明らかになりました。原子番号の大きな元素 (Au) で置き換えたことで、電子数が増加したことに加え、スピン・軌道相互作用が強まったためと考えられます。さらに、伝導電子には、スピン・軌道相互作用の影響を受けているものが存在することが分かりました。もし、この電子が超伝導を担っているとすれば、異常な超伝導状態が実現しているかもしれません。今後、実験的な検証を、より進めていく必要があります。
  4. 空間反転対称性の破れた超伝導において予想される性質のひとつに、上部臨界磁場 (超伝導を保持できる最大の磁場の値) が極めて高くなることが上げられます。これは、クーパー対のスピンの向きがスピン・軌道相互作用によって特定方向に強く固定され、外部磁場ではその向きを容易に変えることができなくなるために起こるものです。この優れた特長を有効に引き出すためにも、その電子状態の詳細を明らかにすることは、たいへん重要です。そして、今回の新物質の発見は、空間反転対称性の破れた超伝導のメカニズム解明、ひいては、磁場に強い新たな超伝導材料の開発に繋がるものとして、期待されます。
  5. 本研究成果は、米国化学会学術誌Chemistry of Materialsの2014年3月25日発行号 (Vol. 26, Issue 6) にて掲載されます。

「プレス資料中の図1 :  SrAuSi3の(a)結晶構造と、(b)走査透過型電子顕微鏡 (STEM) 格子像」の画像

プレス資料中の図1 :  SrAuSi3の(a)結晶構造と、(b)走査透過型電子顕微鏡 (STEM) 格子像