次世代蓄電池の正極−固体電解質界面のリチウムイオン状態シミュレーションに成功
全固体リチウム二次電池の高性能化に向けた界面抵抗制御への貢献に期待
2014.07.03
独立行政法人 物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構
NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の館山佳尚グループリーダーの理論計算科学グループは、NIMSナノ材料科学環境拠点の高田和典チームリーダーの実験チームと共同で、次世代蓄電池の一つとして注目されている全固体リチウム二次電池の酸化物正極と硫化物固体電解質の界面に対する高精度電子・原子シミュレーションに世界で初めて成功し、正極界面における界面抵抗の起源を理論的に実証しました。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の館山佳尚グループリーダーの研究グループは、NIMSナノ材料科学環境拠点 (拠点長 : 魚崎 浩平) の高田和典チームリーダーの研究チームと共同で、次世代蓄電池の一つである全固体リチウム二次電池の正極—固体電解質界面の高精度電子・原子シミュレーションに世界で初めて成功し、正極界面における界面抵抗の起源を理論的に実証しました。
- スマートフォンから飛行機まで幅広く利用されているリチウムイオン電池ですが、電解液の発火など安全上の問題が現在も残っています。原因は燃えやすい有機溶媒を電解液の主成分として使わざるを得ないことにあり、近年その解決策の一つとして燃えない固体電解質を用いた次世代蓄電池の開発が注目を集めています。しかし一般に固体電解質はリチウムイオンの伝導特性が有機溶媒系ほど良くないために充放電速度が遅いといった問題があり、実用化に向けてリチウムイオンの輸送抵抗の低減が急務となっています。特に電極−電解質界面の抵抗の改善は重要な課題で、これまでに緩衝層の導入による抵抗減少などが提案されていますが、充放電時の界面の電子・原子の動きを実験的に観察することは難しく、界面抵抗の起源の解明とその制御法の確立は全固体電池開発の技術的課題として残っていました。
- 本研究では、シミュレーションにより世界で初めて全固体リチウム二次電池の酸化物正極−硫化物電解質界面における界面原子構造やリチウムイオンの挙動を理論的に明らかにしました。電子・原子の動きを高精度で取り扱える密度汎関数理論(DFT)をベースにした計算手法と固体−固体界面の安定構造探索に向けた計算技術の融合により、このような解析が可能になりました。さらに正極界面抵抗の起源として硫化物側の空間電荷層の成長が主要な役割を果たすことを示し、緩衝層の導入がこの空間電荷層効果を緩和することを電子・原子スケールで理論的に実証しました。
- 本研究成果は、最近議論されていた全固体リチウム二次電池の正極−固体電解質界面の界面抵抗の起源を明らかにするとともに、緩衝層導入による界面抵抗の低減機構を原子スケールから与えるものとなっており、今後の全固体電池の高性能化に向けた界面設計に貢献すると考えられます。また本研究は取り扱いの難しかった固体−固体界面の整合に関する系統的な計算解析手法を提案しており、今後シミュレーションとの融合による全固体電池材料の探索研究がさらに盛んになり、安全でかつ高性能な次世代蓄電池の開発を促進することが期待されます。
- 本研究は独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業・個人型研究 (さきがけ) : 「エネルギー高効率利用と相界面」研究領域 (研究総括 : 笠木伸英) の研究課題「第一原理統計力学による太陽電池・光触媒界面の動作環境下電荷移動・励起過程の解明」 (研究者 : 館山 佳尚) および文部科学省委託事業「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プログラム」の一環として行われました。本研究成果は平成26年7月3日に米国化学会発行の材料化学誌「Chemistry of Materials」のオンライン速報版で公開されます。