可視光を含む幅広い波長が利用できる新規水分解光触媒を開発

2015.01.27


独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科

NIMSナノ材料科学環境拠点のChengsi Pan、高田剛および国立大学法人東京大学の堂免一成のグループは、従来よりも幅広い波長領域の可視光が利用できる水分解光触媒を新規に開発しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝、以下NIMS) ナノ材料科学環境拠点 (拠点長 : 魚崎浩平) のChengsi Pan (パン チェンシ) ポスドク研究員、高田剛NIMS特別研究員および国立大学法人東京大学 (総長 : 濱田純一) 大学院工学系研究科化学システム工学専攻の堂免一成教授のグループは、従来よりも幅広い波長領域の可視光が利用できる水分解光触媒を新規に開発しました。
  2. 光触媒を用いて太陽光のエネルギーで水を水素と酸素に分解することにより、クリーンな再生可能エネルギーを創出できます。しかし、これまでに開発された水分解が可能な光触媒はそのほとんどが紫外光しか利用できず、可視光利用が可能な場合でも最長500nm程度まででした。太陽光を高効率で利用するためには、より長波長側の光まで利用できる光触媒の開発が必要でした。そのためには、よりエネルギーの小さな光を利用できる光触媒の開発が必要となりますが、この場合、水分解反応の進行のために投入できるエネルギーが小さくなるために、より高度な材料設計が求められる難易度の高い課題となっていました。
  3. 本研究では、電子構造が長波長吸収に適した遷移金属の酸窒化物を用いて600 nmの波長まで利用できる水分解光触媒を初めて開発しました。その開発手法として、既存の二つのペロブスカイト型化合物であるLaTaON2とLaMg2/3Ta1/3O3 (La:ランタン、Ta:タンタル、O:酸素、N:窒素、Mg:マグネシウム) の間で固溶体を形成し、電子構造を調整しました。これによって、LaMg1/3Ta2/3O2N固溶体が可視光照射により水分解反応が可能になりましたが、光触媒の自己分解および逆反応も併発し、定常的な水分解反応には至りませんでした。これに対して、光触媒粒子表面を非晶質の含水酸化物で被覆することにより、光触媒の自己分解と逆反応を抑制し、定常的な水分解反応の進行を可能にしました。この含水酸化被膜は光触媒表面での化学反応をコントロールする役割を果たしています。
  4. 今回の研究結果は、水分解光触媒開発において有効な新規手法の確立になります。また、この手法を他の光触媒材料へ適応することにより、さらに高活性な光触媒の開発も期待されます。現在のところ、量子収率は未だ低く、この向上が今後の課題です。
  5. 本研究は東京大学大学院工学系研究科総合研究機構の幾原雄一教授のグループと共同で行われました。また、科学研究費補助金特別推進研究「固液界面での光励起キャリアダイナミクスに基づいた革新的水分解光触媒の開発」、文部科学省の委託事業「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プログラム」、「ナノテクノロジープラットホーム」、「GRENE事業先進材料環境材料分野 : 低炭素社会の実現に向けた人材育成ネットワークの構築と先進環境材料・デバイス創製」の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、ドイツ化学会の科学誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン速報版で公開されました。また、本成果はその重要性が評価され、同誌の内表紙デザインに採択されました。

「プレスリリースの図2 : 代表的な光触媒の吸収波長」の画像

プレスリリースの図2 : 代表的な光触媒の吸収波長