幹細胞の骨分化に作用する金ナノ粒子の開発

~カルボキシル基による表面修飾で骨分化を抑制。再生医療用ナノ材料の可能性を拓く~

2015.04.07


国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS)

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の生体組織再生材料ユニットは、幹細胞の骨分化に作用する表面機能化金ナノ粒子の開発に成功しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野正和) の生体組織再生材料ユニット (ユニット長 : 陳国平) は、幹細胞の骨分化に作用する表面機能化金ナノ粒子の開発に成功しました。
  2. 再生医療において、幹細胞の分化や増殖などの機能を制御する技術は不可欠です。これまで、ナノサイズの金粒子によって、ヒト間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化が促進されることが報告されてきました。また別の研究では、アミノ基、カルボキシル基、水酸基など種々の官能基が幹細胞の分化に促進・抑制などの影響を与えることが示唆されていることから、本研究グループは、表面を官能基で修飾した金ナノ粒子は、幹細胞の機能を制御するナノ材料の有力な候補と考えました。しかし、金ナノ粒子の表面を種々の官能基で修飾し、機能化した場合に、ヒト間葉系幹細胞の分化などに対し、具体的にどのような影響を与えるかはこれまでわかっていませんでした。
  3. 本研究グループは、プラスに荷電するアミノ基 (‐NH2) 、マイナスに荷電するカルボキシル基 (‐COOH) 、中性の水酸基 (‐OH) といった官能基で表面修飾した金ナノ粒子をそれぞれ合成し、これらがヒト骨髄由来の間葉系幹細胞の骨分化などにどのような影響を及ぼすのかを明らかにしました。上記の官能基で表面修飾した金ナノ粒子のうち、カルボキシル基で表面修飾した金ナノ粒子は、細胞の内部に取り込まれ、他の官能基で修飾した金ナノ粒子に比べて顕著な骨分化抑制作用をもつことが分かりました。さらに、カルボキシル基修飾金ナノ粒子がヒト骨髄由来の間葉系幹細胞の遺伝子の働きに与える影響について調べたところ、骨分化に関連するいくつかの遺伝子の発現を阻害することが示唆されました。このように、金ナノ粒子に導入した官能基の種類によって骨分化の促進・抑制作用に違いがあることが明らかになりました。
  4. 再生医療の実現には、安全で高品質の幹細胞を確保するとともに、幹細胞の機能を制御する技術も必須です。本研究で得られた知見は、材料的な手法によって幹細胞の機能制御にアプローチしたものであり、新しい幹細胞制御技術としてナノ材料の可能性を切り拓くものです。今後、本研究の成果を積極的に活用し、再生医療への応用を目指していきます。
  5. 本研究成果は、学術誌Biomaterials (バイオマテリアルズ) のオンライン電子版に近く公開される予定です。

「プレスリリースの図2 :   各種金ナノ粒子を添加してヒト間葉系幹細胞 (hMSCs) を3週間培養し、骨分化の指標であるアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色、沈着したリン酸カルシウムのアリザリンレッド染色 (ARS) を行った結果。比較のため、未修飾金ナノ粒子添加、無添加の条件でも実験を行った。上段の写真で紫色に染色された部分はアルカリフォスファターゼの存在領域、暗青色のドッドは金ナノ粒子の凝集体を示す。下段の写真でクモの巣状の赤い染色部分は、沈着したリン酸カルシウム、青紫色のドットは金ナノ粒子の凝集体を表す。スケールバーの長さはすべて500μm。」の画像

プレスリリースの図2 :   各種金ナノ粒子を添加してヒト間葉系幹細胞 (hMSCs) を3週間培養し、骨分化の指標であるアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色、沈着したリン酸カルシウムのアリザリンレッド染色 (ARS) を行った結果。比較のため、未修飾金ナノ粒子添加、無添加の条件でも実験を行った。上段の写真で紫色に染色された部分はアルカリフォスファターゼの存在領域、暗青色のドッドは金ナノ粒子の凝集体を示す。下段の写真でクモの巣状の赤い染色部分は、沈着したリン酸カルシウム、青紫色のドットは金ナノ粒子の凝集体を表す。スケールバーの長さはすべて500μm。