材料のみで血管新生を促進する組織接着性多孔膜を開発

—高価な細胞増殖因子の添加が不要 医療費削減に期待—

2015.06.16


国立研究開発法人 物質・材料研究機構

NIMS MANA生体機能材料ユニットの田口哲志MANA研究者らは、細胞増殖因子を添加せずに、材料のみで新しい血管の形成 (血管新生) を促進する組織接着性多孔膜を開発しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 生体機能材料ユニットの田口哲志MANA研究者らは、細胞増殖因子を添加せずに、材料のみで新しい血管の形成 (血管新生) を促進する組織接着性多孔膜を開発しました。高価で不活性化しやすい細胞増殖因子を使わないため、治療の質を下げずに、医療費の削減に貢献することが期待されます。
  2. これまで、糖尿病により血流が不足している部位等への血管新生を促すために、材料に細胞増殖因子を浸みこませて徐々に放出させる研究や、細胞増殖因子を産生する幹細胞と材料を組み合わせた研究が行われてきました。細胞増殖因子は材料から徐々に放出されることで効果的に血管新生を促進しますが、高価な上、増殖効果が低下しやすいなどの課題がありました。また、細胞増殖因子を含んだ材料を患部に留めておくための組織接着技術についてはほとんど検討されていませんでした。
  3. そこで本研究グループは、ブタ皮膚由来のゼラチンに、組織接着性が高く細胞増殖因子との結合性も高いとされるヘキサノイル基を化学修飾したヘキサノイル化ゼラチンを用いて多孔膜を開発しました。この多孔膜は、全体の容積に対する気孔の割合を非常に高くすると、従来の多孔膜と比較して、約5倍の高い血管新生の能力を示しました。さらに、この多孔膜は、従来の多孔膜に比べて約3倍の高い組織接着性があることを明らかにしました。
  4. 開発した多孔膜は、高価な細胞増殖因子を添加する必要がなく、生体内に存在する血管内皮細胞増殖因子をキャッチして内部に取り込みます。その後、この多孔膜が治癒に伴い生体内で産生される酵素により分解することで、血管内皮細胞増殖因子が徐々に放出され血管新生を促進させることが明らかとなりました。これは、開発した多孔膜が、自己治癒力を高めることで血管新生を促したことを意味しています。
  5. 本材料は、高価で不活性化しやすい細胞増殖因子を用いることなく、材料のみで血管ネットワークの形成を促進することができます。そのため、例えば、糖尿病により血流の不足した下肢 (かし) 等において、本材料のみの適用で効果的な血管の再生が期待でき、治療を受ける際の医療費を削減することが可能になると考えられます。今後、本研究の成果を下に医工連携研究を進め、再生医療分野および治療用デバイスへの展開を目指していきます。
  6. 本研究成果は、学術誌Biomaterials (バイオマテリアルズ) のオンライン電子版で2015年6月9日に公開されました。

「プレスリリースの図1 : 多孔膜をラット皮下へ埋入して7日後の組織像。赤丸は、新生血管を示す。従来の多孔膜 (左) は新たに形成された血管の量が少ないのに対し、開発した多孔膜 (右) には、多くの血管が形成されている。」の画像

プレスリリースの図1 : 多孔膜をラット皮下へ埋入して7日後の組織像。赤丸は、新生血管を示す。従来の多孔膜 (左) は新たに形成された血管の量が少ないのに対し、開発した多孔膜 (右) には、多くの血管が形成されている。