アナターゼ型酸化チタン表面を構成する原子の種類の特定に成功

光触媒や太陽電池の材料開発に必要な指針の提供へ前進

2015.06.29


国立研究開発法人 物質・材料研究機構

NIMS先端的共通技術部門の極限計測ユニット、チェコのカレル大学、スペインのマドリード自治大学のグループ等からなる研究チームは、アナターゼ型の結晶構造を持つ酸化チタンの表面を原子レベルで可視化し、原子や欠陥の種類を特定することに成功しました。

概要

  1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 先端的共通技術部門 (部門長 : 藤田大介) の極限計測ユニット原子間力プローブ計測グループのクスタンセ オスカルグループリーダー、清水智子主任研究員、同ユニット表面物性計測グループの藤田大介グループリーダー、鷺坂恵介主任研究員、チェコのカレル大学、スペインのマドリード自治大学のグループ等からなる研究チームは、アナターゼ型の結晶構造を持つ酸化チタンの表面を原子レベルで可視化し、原子や欠陥の種類を特定することに成功しました。
  2. アナターゼ型酸化チタン (以下、アナターゼ) は、光触媒や太陽電池材料などに使用するエネルギー材料として注目され、近年開発が進んでいます。触媒活性を高め、光から電気へのエネルギー変換効率を向上させるためには、材料表面で起こる反応の詳細を単原子レベルで理解し制御する必要があります。しかし、エネルギー的に安定度が劣るアナターゼ型の単結晶を人工的に実験室で作り出すことは難しく、また試料作成と原子レベルでの観測技術の両方を持つ研究グループが世界でも限られるため、これまでアナターゼ型酸化チタン表面に存在する原子や欠陥の種類を原子スケールで特定するには至っていませんでした。
  3. 今回、研究チームは、自然界に存在する石から切り出した試料を、原子レベルで平坦かつ清浄にすることで試料を作り、原子間力顕微鏡 (AFM) と走査型トンネル顕微鏡 (STM) の同時測定技術を用いアナターゼ表面を単原子レベルで観測しました。さらに、水の単分子をマーカーとして用いることで、AFMとSTMを使って得られた画像と第一原理計算結果との比較から、表面の原子の種類を特定することに成功しました。
  4. また、通常のSTMでは、試料表面との間に流れる電流によって顕微鏡の探針と表面との距離を保っているため、電気の流れにくいアナターゼ上で安定してスキャンする (探針で表面をなぞる) ことは困難ですが、AFM-STM同時測定では、試料表面と探針との間に働く力 (ファンデルワールス力等) によって距離を保つことができるため、信頼できるSTM像を得ることも可能となりました。このSTM像を理論シミュレーションと比較することで、欠陥の種類の特定にも成功しました。
  5. 今後、この成果で得られた表面状態の情報を元に、AFM・STM同時測定技術を活用して、アナターゼ型酸化チタンに吸着する分子等について研究し、光触媒や太陽電池の材料開発に必要な指針の提供を目指します。
  6. 本研究成果は、2015年6月29日 (現地時間) にNature Communications誌オンライン版に掲載されます。

「プレスリリースの図1 :  AFM・STM同時測定で得られたアナターゼ酸化チタン表面のAFM像 (1a) とSTM像 (1b) 。図の平行四辺形は、表面の同じ場所を示す。輝点がAFM像とSTM像で異なることが分かるが、どちらが酸素でどちらがチタンかはこの図だけでは分からない。 (1c) はアナターゼ (101) 表面構造を横から見た図。」の画像

プレスリリースの図1 :  AFM・STM同時測定で得られたアナターゼ酸化チタン表面のAFM像 (1a) とSTM像 (1b) 。図の平行四辺形は、表面の同じ場所を示す。輝点がAFM像とSTM像で異なることが分かるが、どちらが酸素でどちらがチタンかはこの図だけでは分からない。 (1c) はアナターゼ (101) 表面構造を横から見た図。