計測・分析装置の性能を飛躍的に高める高輝度・細束な電子源を開発
~現行の電子源に比べ輝度が100倍に ! 次世代電子顕微鏡開発に道~
2015.12.01
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
NIMSの研究グループは、電子顕微鏡などの電子源として期待されているランタンホウ化物 (LaB6) 単結晶ナノワイヤの表面を原子レベルでクリーニングする技術を開発し、電子源の高性能化と安定性の向上に成功しました。
概要
- 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 極限計測ユニットのZhang Han 主任研究員および先端材料プロセスユニット 一次元ナノ材料グループの唐 捷グループリーダーは、電子顕微鏡などの電子源として期待されているランタンホウ化物 (LaB6) 単結晶ナノワイヤの表面を原子レベルでクリーニングする技術を開発し、電子源の高性能化と安定性の向上に成功しました。さらに、開発した電子源を走査型電子顕微鏡に組み込んで高分解能の像を得ることに成功し、実際に電子顕微鏡の高輝度・細束な電子源として使用できることを示しました。
- 電子顕微鏡の空間分解能を向上させるには、電子源から多量の電子を放出させた上で細く絞った、高輝度・細束の電子線が必要となります。現在、高分解能な電子顕微鏡では、針状のタングステンが電子源として使われていますが、空間分解能を更に向上させるためには、タングステンより電子放出が容易なLaB6を用いた電界放射型の電子源の開発が望まれていました。しかし、LaB6が非常に硬く扱いにくいために電界放射型に必要なナノワイヤの作成が困難でした。
- 本研究グループは米国ノースカロライナ大学Lu-Chang Qin教授と共同で、化学気相法を用いることで、LaB6のナノワイヤからなる電子源の作製に成功しました。さらに、LaB6ナノワイヤ電子源表面のクリーニング技術も開発し、電子放出特性を高め安定性の高い電子源の開発に成功しました。開発したLaB6ナノワイヤ電子源は、現行のタングステン電子源に比べ、電子線が細束であり、輝度が100倍、エネルギー幅が3分の2になることを確認しました。また、電界放射顕微鏡に組み込んだ場合、電流密度が1000倍、電流の減衰なく5時間使用できることも実証しました。このLaB6ナノワイヤ電子源で実際にサンプルの観察を行ったところ、従来の水準を超える高分解能の電子顕微鏡像を得ることができました。
- 今回開発したLaB6ナノワイヤ電子源は、従来の電子銃のタングステン電子源を交換するだけで簡単に実装することが可能です。今後、民間企業との共同研究によって、LaB6ナノワイヤ電子源の実用化・製品化を進めていく予定です。
- 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構 産学イノベーション加速事業「先端計測分析技術・機器開発」要素技術プログラム「ナノ構造制御LaB6次世代電界放射電子銃の開発」 (研究代表者 : 唐 捷) の一環として得られた成果を発展させたものです。本研究成果は、英国科学誌Nature Nanotechnologyに2015年11月30日 (現地時間) にオンラインで掲載される予定です。