1km級超伝導線材に高品質銅を高速複合する
新しいメッキ技術の開発に成功
ニオブ・アルミ線材の安定化用バイパス大電流導体
2007.06.08
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS超伝導材料センターは、株式会社ヒキフネと共同で、実用スケール長の新製法ニオブ・アルミ超伝導線材へ高品質の銅を厚く短時間で複合する新しい高速メッキ技術を開発した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 、超伝導材料センター (センター長 : 熊倉 浩明) 強磁場線材グループの菊池 章弘 主任研究員は、株式会社ヒキフネ (代表取締役 : 石川 輝夫) と共同で、実用スケール長 (1km以上) の新製法ニオブ・アルミ超伝導線材へ高品質の銅を厚く短時間で複合する新しい高速メッキ技術を開発した。
- ニオブ・アルミ線材は、約2,000℃の高温で連続的に急速加熱する特殊な熱処理 (急熱急冷処理) を実施することから、処理中に銅が溶融するため銅を母材とすることができないが、実際に実用化するには銅の複合が不可欠である。しかし、クラッド圧延を用いても線材と銅との密着性が乏しく、また薄い銅箔しか扱うことができないため多量の銅を複合するには限界があった。さらに、平角形状の線材にしか銅を貼り合わせることができず、加速器や核融合炉等へ幅広く実用化を図るには、1km級の長尺線材で丸形状のまま高品質銅を効率よく複合しなければならないという大きな課題が残されていた。
- 今回、1km級のニオブ・アルミ超伝導線材に、150ミクロン (0.15mm) の厚みの高品質銅を高速電気メッキすることに成功し、処理速度は1日あたり120mと従来のメッキの常識を超えて効率を格段に高めることができた。これほどまでに高速化したメッキでも、表面にざらつきや凹凸はなく、線径の寸法精度を±3ミクロン (0.003ミリ) に保つことができ、メッキ内部にもボイド等の欠陥がない。また、従来のクラッド圧延で複合していたものと比較して極低温において4~5倍も電気抵抗が小さく、超伝導安定化導体として1,000A級の運転電流に十分耐え得ることができる。
- 今回開発した高速電気メッキ技術は、ニオブ・アルミ超伝導線材の実用化を一層加速させるとともに、超伝導線材以外の分野にも大きな波及効果がある。例えば、機械的な複合加工が困難な、高強度ピアノ線や光ファイバーなどにも高品質の銅を多量に効率よく複合することができ、電気自動車や航空機部品等の幅広い応用が開けるとの期待が高まっている。
- 今回作製した1km級の銅安定化ニオブ・アルミ超伝導線材は、米国・フェルミ国立加速器研究所と共同で、次世代加速器のための新しいラザフォードケーブルが試作される予定となっている。なお、当機構とフェルミ研究所は、2年前から次世代加速器用超伝導線材の開発に関する国際共同研究を推進している。これらの結果は、8月27日から米国フィラデルフィアで開催される第20回マグネット技術会議で発表される。なお、本研究の一部は文部科学省科学技術振興費委託研究 (新方式NMR分析技術の開発) の一環として行われた。