多孔性ナノシートを用いて有機分子の超高速濾過を実現
ナノ薄膜化により水の透過速度が1000倍に
2009.04.27
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMSナノ有機センター 機能膜グループは、計算科学センターの第一原理物性グループと共同で、水に溶けている1.5ナノメートル程度の有機分子を超高速で除去できる革新的な分離膜を開発し、膜内部の水の透過メカニズムを明らかにすることに成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) ナノ有機センター (センター長 : 一ノ瀬 泉) の機能膜グループの研究者らは、計算科学センター (センター長 : 大野 隆央) の第一原理物性グループと共同で、水に溶けている1.5ナノメートル程度の有機分子を超高速で除去できる革新的な分離膜を開発し、膜内部の水の透過メカニズムを明らかにすることに成功した。
- 水処理膜では、膜の厚みに反比例して処理速度が向上する。このため、溶存イオンや分子を除去できる極薄の膜の開発は、近年、国内外で活発に研究されてきた。このような膜は、地下水や河川から有害物質 (農薬、ウイルスなど) を取り除くことで世界の水問題の解決に貢献し、人工透析膜などの医療分野への応用も期待できる。水処理膜は、膜の前後の大きな圧力差に耐えなければならない。このため、一般には、機械的強度が大きい芳香族ポリイミドやセラミックス、シリコンなどの無機材料を用いて製造されてきた。しかしながら、極薄の水処理膜の内部にナノスケールの流路を設計することが容易でなく、高い処理速度を実現することが困難であった。
- 今回の研究では、極細の無機ファイバーを利用することで、30‐100ナノメートルの薄さのタンパク質 (フェリチン) の自立膜を形成し、さらにグルタルアルデヒドという架橋剤を用いて、膜の力学的強度を向上させることに成功した。自立膜の内部には、直径約2ナノメートルの水の流路が無数に形成されており、有機分子をブロックしながら、水を超高速で透過させることができる。薄さが60ナノメートルの膜では、6,000 L/ h•m2•barという速度で、有機色素 (プロトポリフィリン) を濃縮できることが実証された。この処理速度は、同様な分画分子量の限外濾過膜 (またはナノ濾過膜) と比較して約1000倍大きい。
- 本研究の一部は、JST-CREST「ナノ界面技術の基盤構築」領域 (領域総括 : 新海 征治) の研究課題「界面ナノ細孔での液体の巨視的物性の解明」 (研究代表者 : 一ノ瀬 泉) の一環として得られた。なお、今回の成果は、平成21年4月26日にNature Nanotechnology誌 (電子版) に掲載される。(論文 : X. Peng, J. Jin, Y. Nakamura, T. Ohno and I. Ichinose “Ultrafast permeation of water through protein-based membranes” DOI number: 10.1038/NNANO.2009.90)