セラミックスの3次元原子トモグラフィーに成功

紫外線レーザーによる3次元アトムプローブの革新

2009.06.15


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMSとJSTは、絶縁性セラミックスである安定化ジルコニア-スピネルナノコンポジットの原子レベルでの3次元トモグラフィーに成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) と独立行政法人科学技術振興機構 (理事長 : 北澤 宏一、以下JST) は、絶縁性セラミックスである安定化ジルコニア-スピネルナノコンポジットの原子レベルでの3次元トモグラフィーに成功した。解析には個々の原子の位置と元素種の同定のために紫外線で動作させた3次元アトムプローブ法を用いた。この成果は、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の宝野 和博主任研究員と大久保 忠勝 磁性材料センターナノ組織解析グループリーダーが、筑波大学大学院数理物質科学研究科 物質・材料工学専攻の陳 一萌大学院生らとともに行った研究によって得られた。
  2. セラミックス材料の3次元形態トモグラフィーは電子顕微鏡を用いて数10nm程度の分解能で行うことも可能であるが、今回得られたのは100万個程度の原子から構成される原子トモグラフィーであり、原子分解能を持ち、ナノ領域の濃度分析も行えるという点で、従来のトモグラフィー法とは次元が異なる高精度のものである。今回の研究では、従来絶縁体セラミックスには応用が不可能であると思われてきた3次元アトムプローブ法で原子のイオン化のために紫外線レーザーを用いたことを特長としている。
  3. アトムプローブ法では1千万ボルト毎メータ (1千万V/m) の高い電界を針状試料にかけて原子をイオン化するが、本研究では集束イオンビームによる微細加工法を用いてバルクセラミックス材料から先端の半径が50nm程度の針状試料を加工し、それをタングステン針の上に接着した針を用いている。10億オーム・センチメータ (109Ω・cm) の絶縁性セラミックス針の先端に高電圧をかけて343nmの波長のフェムト秒レーザーを照射させたところ、原子のイオン化がフェムト秒レーザーに同期されて起こることを見出し、この現象を用いて個々の原子の飛行時間測定と位置検出を同時におこない3次元原子トモグラフィーの取得に成功した。
  4. 本研究は従来金属や半導体にしか使えないと考えられていた3次元アトムプローブ法を絶縁性セラミックスのバルク材料に応用できることを実証した初めての例であり、今後紫外線レーザーを用いた3次元アトムプローブ法がセラミックス材料の汎用的なナノ解析法と発展する可能性を示唆している。
  5. 本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 (CREST) の研究領域「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」 (研究総括 : 田中 通義、東北大学 名誉教授) における研究課題「レーザー補助広角3次元アトムプローブの開発とデバイス解析への応用」 (研究代表者 : 宝野 和博) の一環として行われた。なお、今回の成果は、2009年5月30日に材料系速報誌のScripta Materialiaに受理され、近日中にオンライン版で公開される。

「プレス資料中の図2: 紫外線レーザー照射により可能となった絶縁性ナノセラミックス材料の原子トモグラフィーと任意の領域から得られた濃度プロファイル」の画像

プレス資料中の図2: 紫外線レーザー照射により可能となった絶縁性ナノセラミックス材料の原子トモグラフィーと任意の領域から得られた濃度プロファイル