カルシウム原子の可視化に成功

単分子・単原子の分析を可能にする新型電子顕微鏡を開発

2009.07.06


独立行政法人科学技術振興機構
独立行政法人産業技術総合研究所
独立行政法人物質・材料研究機構
日本電子株式会社

JSTの目的基礎研究事業の一環として、AIST ナノチューブ応用研究センターの末永 和知 研究チーム長らは、有機分子・生体分子などの分析を可能にする電子顕微鏡を開発しました。

概要

JSTの目的基礎研究事業の一環として、独立行政法人 産業技術総合研究所 (以下、産総研) ナノチューブ応用研究センターの末永 和知 研究チーム長らは、有機分子・生体分子などの分析を可能にする電子顕微鏡を開発しました。この新型電子顕微鏡では、単分子・単原子の元素分析技術を飛躍的に向上させ、特にカルシウム単原子の元素分析を実現しました。具体的には、まったく新しい球面収差補正機構 (デルタ型収差補正機構) を考案し組み込むことで、通常200~1000キロボルト (kV) である電子顕微鏡の加速電圧注を30~60kVまで低減することに成功しました。この技術を組み込むことにより、これまで高電圧の電子線によって壊れやすく観察が困難であった有機分子や生体分子一つひとつの観察が実現可能になりました。中でも、従来の技術では不可能だった、生体材料で重要なカルシウムなどの軽元素を単原子レベルで検出できます。本研究は、独立行政法人 物質・材料研究機構 (以下、NIMS) ナノ計測センターの木本 浩司 主席研究員、日本電子株式会社 電子光学機器本部の金山 俊克 チームリーダと共同で行ったものです。本研究成果は、2009年7月5日 (英国時間) に英国科学雑誌「Nature Chemistry」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 (CREST)
研究領域 :
「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
(研究総括 : 田中 通義 東北大学 名誉教授)
研究課題名 :
ソフトマターの分子・原子レベルでの観察を可能にする低加速高感度電子顕微鏡開発
研究代表者 :
末永 和知
(独立行政法人 産業技術総合研究所 ナノチューブ応用研究センター 研究チーム長)
研究期間 :
平成18年10月~平成24年3月

JSTはこの領域で、物質や材料に関する科学技術の発展の原動力である新原理の探索、新現象の発見と解明に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術の創出を目指しています。上記研究課題では、従来不可能であった、電子顕微鏡を使った有機・生体分子など「軽元素からなる非周期性物質 (ソフトマター) 」の観察を可能とするべく、低加速電子顕微鏡と新型収差補正技術を中心とする電子顕微鏡開発を行っています。

「図5: 新型電子顕微鏡で撮影されたエルビウム金属入りフラーレンの電子顕微鏡像加速電圧を低くした (60kV) ために、フラーレン分子が壊れることなく撮影されている。」の画像

図5: 新型電子顕微鏡で撮影されたエルビウム金属入りフラーレンの
電子顕微鏡像加速電圧を低くした (60kV) ために、フラーレン分子が壊れることなく撮影されている。


「図6: カーボンナノチューブ中の金属原子の元素マッピングの例図」の画像

図6: カーボンナノチューブ中の金属原子の元素マッピングの例図