1800メガパスカル級超高強度ボルトの開発に成功

超高強度で壊れにくい

2009.10.05


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS新構造材料センターは、株式会社共和工業所、扶桑機工株式会社と共同で、強くてかつ壊れにくい超高強度ボルトの開発に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) の新構造材料センター (センター長 : 津﨑 兼彰) の木村 勇次 主幹研究員と材料信頼性萌芽ラボ (ラボ長 : 原田 幸明) の井上 忠信 主幹研究員は、株式会社共和工業所、扶桑機工株式会社と共同で、強くてかつ壊れにくい超高強度ボルトの開発に成功した。
  2. 構造材料で要求される基本性能は大きな荷重を支えること (強度) と粘り強く壊れにくいこと (靭性) である。これまで、物質・材料研究機構では、少量の合金元素を添加した鋼材の金属組織を制御することで、低温でも壊れにくい超高強度鋼を開発してきた。 (Science, 320 (2008), p.1057,2008年5月23日付けプレスリリース)
  3. 今回、先に開発した低温でも壊れにくい超高強度鋼材を用いて、従来のボルトの冷間成形 (室温近傍) よりも高い温度域 (500~700℃) で鋼材をボルトに成形する、いわゆる温間成形技術を確立することで従来にない概念の超高強度ボルトを実現した。1800メガパスカル (MPa/1MPa=断面積 1mm2あたり1N (およそ0.102kgf) ) の超高強度において、従来法で作製されたボルトは引張試験で図1(b)のように容易に破断してしまうのに対し、開発したボルトは図1(a)のように木を引きちぎった時のような破壊形態を示して容易には壊れない。すなわち、 1800MPa級の超高強度でボルトの安全性を大幅に高めた。
    これまで、ボルトの強度特性は頭部からネジ部にかけて均一であった。これに対し、開発ボルトは、首下円頭部から頭部にかけて強度 (硬さ) が傾斜的に低くなる分布を持っている。 (図2) 。日本独自の優れた鉄つくりの技術を凝縮した強くて折れにくい日本刀は,炭素量の多い硬い鋼が炭素量の少ない軟らかくて粘りのある鋼を包み込んだ複合組織構造からなる、一種の傾斜機能材料であり、一見、開発ボルトと類似した傾斜機能を有する (図2) 。ところが、日本刀の刃先は硬くてもろいが、開発したボルトのネジ部は開発鋼を素材としているため、硬くても壊れにくい。すなわち、従来とはまったく異なる設計思想によってボルトは創製された。
  4. 近年、省資源化、省エネルギー化、そしてCO2排出量削減を目的とした輸送機の更なる軽量化や次世代鋼構造物の実現を目指し、鉄鋼材料のより一層の高強度化が求められている。その中で、鋼板や形鋼の高強度化と同時に、高強度鋼材の接合に用いられるボルトの高強度化も切望されている。強くて壊れにくいボルトの実現は、高強度鋼材の利用域拡大に大きく貢献するものと期待する。

「破断箇所 (き裂が伝播しにくい壊れ方) 図1 (a) 開発した六角ボルト (M12)  ボルト製品の引張強度=1848MPa」の画像

破断箇所 (き裂が伝播しにくい壊れ方)
図1 (a) 開発した六角ボルト (M12) ボルト製品の引張強度=1848MPa