小型固体電解質型燃料電池開発のための新素材の開発
新しい集合の法則
2010.09.20
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMSは、ローマ大学トルヴェルガータ校と共同で、結晶粒界のないイットリウム添加ジルコン酸バリウム薄膜の作製に成功した。
概要
- 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野正和) のTRAVERSA Enricoグループリーダー、PERGOLESI Daniele、FABBRI Emilianaらの研究グループは、ローマ大学トルヴェルガータ校と共同で、結晶粒界のないイットリウム添加ジルコン酸バリウム (BaZr0.8Y0.2O3-.、BZY) 薄膜の作製に成功した。この薄膜は350℃におけるプロトン伝導率として、これまでに報告されている酸化物材料の中では、最も高い伝導率を達成した。さらに、得られた伝導率は、同温度領域にて安定な酸素イオン伝導体がもつ最高性能の伝導率と比べ極めて大きい。
- パルスレーザー堆積法を用い、結晶粒界のない高品質のBZY薄膜を作製した。電気化学的測定の結果では、作動温度500℃で伝導率0.11 S/cmを実現し、また燃料電池の実用化に必要な最小伝導率である0.01 S/cmについては350℃の低温でこれを実証した。この値は、これまで BZYにおいて報告されているプロトン伝導率中で最大である (図1参照) 。本研究は、300℃を超える温度領域での優れたBZYバルク伝導率を初めて実験的に検証したものであり、今回用いた高配向結晶のBZY薄膜では、ブロック効果を持つ結晶粒界が存在しないと予想される。
- 固体酸化物燃料電池 (SOFC) は、環境に優しく、かつ、効率的にエネルギーを生産するデバイスである。BZYのような高温プロトン伝導体は、電荷輸送のための活性化エネルギーが低いために低温で高伝導率を実現できるという利点があり、従来SOFCに用いられてきた酸素イオン伝導体 (固体電解質) の代替材料として期待されている。さらに、高温プロトン伝導体を用いることにより、反応生成物である水は陰極側に生じるため、陽極側にある燃料が生成物により希釈されて反応効率が低下するのを防ぐことが出来る。SOFCを広く実用化するには、作動温度を700℃以下にする必要があり、小型電子機器 (ノート型パソコン、携帯電話など) の携帯電源用小型SOFCの開発には、450℃以下の作動温度が要求される。
- BZYは、優れた化学安定性を有するにもかかわらず、これまでは有効利用されてこなかった。それは多結晶材料として焼結性が悪く、ブロック効果を持つ結晶粒界のためにプロトン伝導率が低かったことによる。そのため、本研究では、パルスレーザー堆積法を用いることにより、これらの問題を回避して、結晶粒界のない高配向のBZY薄膜が得ることに成功し、これまでに開発されたSOFC用電解質の中で最高性能を有する固体電解質の1つであることを実証した。
- SOFCは、燃料と空気を供給するもので充放電サイクルを必要とせず、またリチウムバッテリーよりもエネルギー密度が大きい。本研究の電解質の発見は、350℃という低い温度で作動する燃料電池を可能にし、リチウムバッテリーに代わる小型SOFCの開発に新たな展望を切り拓く可能性を持つ。
- 本研究成果は、日本時間9月20日 (月曜日) AM2:00 (ロンドンの現地時間9月19日PM18:00) に、Nature誌の姉妹誌であるNature Materialsのオンライン版で発表される予定である。