最表面の“スピン”と“構造”の複合分析を世界で初めて実現

新しいイオンビームで次世代の磁気デバイス開発を加速 !

2011.10.19


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人 科学技術振興機構

NIMS 光・電子材料ユニットのセラミックス化学グループ 鈴木 拓主幹研究員、菱田 俊一グループリーダー、極限計測ユニットスピン計測グループ山内 泰グループリーダーは、最表面 (表面第一原子層) のスピン・元素組成・原子位置の複合分析に世界で初めて成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 潮田資勝) 光・電子材料ユニットのセラミックス化学グループ鈴木 拓主幹研究員、菱田 俊一グループリーダー、極限計測ユニットスピン計測グループ山内 泰グループリーダーは、最表面 (表面第一原子層) のスピン・元素組成・原子位置の複合分析に世界で初めて成功した。
  2. 電子は電荷に加え、スピンという磁石の様な性質を持っている。電荷とスピンの両方を利用するデバイスはスピントロニクスと呼ばれ、電荷だけを利用する現在のデバイス (エレクトロニクス) に比べて遥かに高い性能が期待されることから、現在、世界中でその開発が進められている。
  3. スピントロニクス開発で鍵となるのは、最表面 (表面第一原子層) の“スピン”と、元素組成や原子位置に関する“構造”の分析である。このうち、スピンに関しては、最先端の分析技術を用いてもその分析は極めて困難であり、この解決がスピントロニクス開発での課題となっていた。
  4. これに対し、“スピン偏極 4He+イオンビーム”と呼ばれる新しいイオンビームは、最表面のスピンとだけ相互作用すると考えられており、この相互作用を利用することで最表面のスピンと構造の複合分析が実現すると期待されている。本研究者らは平成19年に、ビームの性能指標 (ビーム偏極率) が世界最高であるスピン偏極 4He+イオンビームの開発に成功していた。ただし、その複合分析の実現には、この相互作用 (スピン軌道相互作用) の解明が課題となっていた。
  5. 本研究では、この新しいイオンビームを用いて偏極 4He+イオンと様々な原子を衝突させる実験を系統的に行った。そして得られた実験データの詳細な解析から理論モデルを構築し、この相互作用の解明に成功した。
  6. 本研究によって、比較的小型の装置で、手軽に、最表面のスピンと構造の複合分析が可能になったことから、今後、スピントロニクス開発の飛躍的な進展が期待される。
  7. 本研究成果は、平成23年10月21日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会の論文誌Physical Review Lettersに掲載され、オンライン版は10月18日に公開される。また本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 (先端計測分析技術・機器開発プログラム) における開発課題「スピン偏極イオン散乱分光」 (チームリーダー : 鈴木 拓) の一環として行われたものである。

「プレス資料中の図1 : スピン偏極 4He+イオンビームによる最表面スピン分析の原理図。He+イオンは表面で散乱される際、最表面で電子を受け取りHe原子となる (イオン中性化) 。ただし、中性化が起こるのは、He+イオンのスピンと最表面の電子のスピンの向きが反平行の場合に限られる (パウリの排他原理) 。したがって、(A)ではHe+イオンは中性化されるのに対し、(B)では中性化が起きない。つまり中性化は最表面電子のスピンに依存するので、イオン中性化を経ずに散乱されたHe+イオンを観測することで、最表面の電子スピンを分析できる。」の画像

プレス資料中の図1 : スピン偏極 4He+イオンビームによる最表面スピン分析の原理図。He+イオンは表面で散乱される際、最表面で電子を受け取りHe原子となる (イオン中性化) 。ただし、中性化が起こるのは、He+イオンのスピンと最表面の電子のスピンの向きが反平行の場合に限られる (パウリの排他原理) 。したがって、(A)ではHe+イオンは中性化されるのに対し、(B)では中性化が起きない。つまり中性化は最表面電子のスピンに依存するので、イオン中性化を経ずに散乱されたHe+イオンを観測することで、最表面の電子スピンを分析できる。