強靭な高温超電導ナノワイヤー

鉄系超電導体のウィスカー結晶の製造に成功

2012.03.19


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS超伝導物性ユニット強相関物質探索グループとNIMS連携大学院の大学院生らは、同ユニットのエレクトロニクスグループ、国立大学法人東京工業大学フロンティア研究機構と共同で強靭な高温超電導ナノワイヤーの開発に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) 超伝導物性ユニット強相関物質探索グループの山浦一成 主幹研究員とNIMS連携大学院 (北海道大学大学院) 李 軍 (リ ジュン) 大学院生らは、超伝導物性ユニットエレクトロニクスグループの袁 潔 (ユン ジィ) NIMS特別研究員と王 華兵 (ワン ホワビン) 主幹研究員と国立大学法人東京工業大学フロンティア研究機構の細野 秀雄 教授と共同で、強靭な高温超電導ナノワイヤーの開発に成功した。
  2. 日本で開発された鉄系超電導体は、必須元素として鉄とヒ素を含有し、更に他の2種類以上の追加元素を含む場合に超電導転移温度が最も高くなることが知られている。しかし、産業上重要な長さ (L) と直径 (d) のアスペクト比 (L/d) が高いウィスカー状の結晶を製造する場合、原料元素を気化し、反応ガス又は搬送ガスによって輸送し、気相反応によって基板上で結晶成長させる一般的なウィスカー結晶の製造方法では、結晶育成装置の中で原料元素のヒ素が広範に拡散するため、毒性対応が困難である問題があった。さらに、鉄系超電導体の超電導特性は結晶組成に鋭敏である問題もあった。例えば、超電導転移温度が絶対温度で30 K (−243 ℃) 以上の鉄系超電導体は、鉄とヒ素を含む4種類以上の元素から構成されているが、従来の方法では、鉄とヒ素を含む4種類以上の構成元素を任意に制御してウィスカー結晶を合成することが難しく、これまでに鉄系超電導体のウィスカー結晶は製造されていなかった。
  3. 今回の研究では、上記の現状を鑑みて、原料物質に結晶育成を促進する添加剤を混ぜ、この混合粉末をカプセル状の金属製反応容器に充填し、機械的に適切な圧力を加えて混合粉末の最適な高密度化を図った後に除圧し、適切な熱処理を施すことによって所望の鉄系超電導体のウィスカー結晶を製造することに成功した。また、得られたウィスカー結晶が絶対温度33 K (−240 ℃) で超電導状態に転移することを確認した。また、形状が棒針状であり、アスペクト比が200以上であり、直径が1マイクロメートル程度以下 (ナノワイヤー) であることも確認した。
  4. 銅酸化物超電導体でも超電導転移温度が同程度以上のウィスカー結晶が製造されているが、セラミックス固有の脆さのため、用途が限られている。また、フラーレンの超電導ウィスカーも製造されているが、アスペクト比は10程度以下である。これに対し、鉄系超電導体のウィスカー結晶は、セラミックスよりも合金にその性質が近く、強靭であり、さらにアスペクト比が大きく適用可能な用途を拡大できる。
  5. 今回の成果は、独立行政法人日本学術振興会最先端研究開発支援プログラム「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」 (中心研究者 : 細野 秀雄) の一環で得られた。本成果は、米国化学会誌 (Journal of the American Chemical Society) の速報論文 (Communication) として平成24年3月7日に公表されている。

「プレス資料中の図2: 高温超電導ナノワイヤーに応力を加えた様子」の画像

プレス資料中の図2: 高温超電導ナノワイヤーに応力を加えた様子