酸化鉄表面スピン特性の解明と大幅な改善に成功

界面制御によるハーフメタル特性の向上

2012.05.25


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 極限計測ユニットはイギリス・ヨーク大、中国科学技術大学と共同で、ハーフメタルとして知られる酸化鉄 (Fe3O4) 表面第一層のスピン偏極度が表面処理により大幅に改善できることを示し、酸化物ハーフメタルを用いて高いトンネル磁気抵抗 (TMR) 比などの高いスピン偏極特性を得るための指針を得た。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) 極限計測ユニット (ユニット長 : 藤田 大介) の倉橋 光紀主幹研究員、山内 泰グループリーダーはイギリス・ヨーク大のプラット・アンドリュー研究員、中国科学技術大学の孫 霞 准教授と共同で、ハーフメタルとして知られる酸化鉄 (Fe3O4) 表面第一層のスピン偏極度が表面処理により大幅に改善できることを示した。そして酸化物ハーフメタルを用いて高いトンネル磁気抵抗 (TMR) 比などの高いスピン偏極特性を得るための指針を得た。
  2. ハーフメタルは伝導電子のスピンの向きが100%揃っている材料を指し、高性能磁気センサー等の開発に不可欠な材料である。酸化鉄 (Fe3O4) は、高キュリー温度 (585℃) 、単純な組成を特徴とする酸化物ハーフメタルであり、ありふれた元素のみで構成されるため希少金属依存からの脱却が急務となった近年その重要性が増している。しかし、Fe3O4を用いて得られたTMR比は低く、その原因はこれまで不明であった。
  3. 倉橋らは、独自に開発したスピン偏極準安定ヘリウムビームを用いた計測手法を用い、Fe3O4表面第一層のスピン偏極度が結晶内部より遙かに小さく、 (100) 面で殆どゼロ、 (111) 面では想定外の逆極性となることを明らかにした。一方、 (100) 面では表面に水素原子を吸着させることによりスピン偏極度が室温でも少なくとも-50%にまで回復できることを示し、電子状態の数値シミュレーションでは表面第一層でスピン偏極度が-100%に近い値となることを確認した。
  4. 本研究により、界面制御によりFe3O4界面第一層で高いスピン偏極度が得られることが実証され、酸化物ハーフメタルを用いた高いトンネル磁気抵抗比の達成や、有機分子等への高いスピン偏極の導入に必要な指針が得られた。
  5. 本研究成果はNIMS第三期中期計画プロジェクト「先端材料計測技術の開発と応用」(リーダー:藤田 大介)ならびに独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費助成事業・挑戦的萌芽研究「表面修飾による酸化物最表面ハーフメタル性回復とスピン注入への応用」 (研究代表者 : 倉橋 光紀) の一環として得られた。米国物理学会雑誌Physical Review B (Rapid communication) に近日中に掲載される予定である。

「プレス資料中の図1:  Fe3O4(100), (111)最表面スピン偏極と水素終端効果。(100)面のスピン非対称率は水素終端により大幅に改善されている。試料電圧14eV付近の非対称率は、伝導電子スピン偏極度の逆符号に近似的に等しい。」の画像

プレス資料中の図1: Fe3O4(100), (111)最表面スピン偏極と水素終端効果。(100)面のスピン非対称率は水素終端により大幅に改善されている。試料電圧14eV付近の非対称率は、伝導電子スピン偏極度の逆符号に近似的に等しい。