わずか数原子層の金属膜で電気的磁化操作効率を制御

極薄磁性膜を用いた不揮発性メモリ・演算素子技術への展開に期待

2012.12.24


独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人東北大学

NIMS 磁性材料ユニットの林 将光主任研究員らの研究グループは、国立大学法人東北大学と共同で、極薄の強磁性金属層を非磁性金属層と酸化物層で挟んだ磁性ナノヘテロ接合において、非磁性金属層の膜厚をわずか数原子層程度変化させるだけで、強磁性金属層における磁化方向の電気的制御効率を大きく変えられることを見出した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 磁性材料ユニットの林 将光主任研究員らの研究グループは、国立大学法人東北大学省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター、電気通信研究所及び、原子分子材料科学高等研究機構の大野 英男教授らと共同で、極薄の強磁性金属層を非磁性金属層と酸化物層で挟んだ磁性ナノヘテロ接合において、非磁性金属層の膜厚をわずか数原子層程度変化させるだけで、強磁性金属層における磁化方向の電気的制御効率を大きく変えられることを見出した。
  2. 磁性体の磁化の向きを情報の記憶ビットとして用い、その磁化の向きを電気的に制御するスピントロニクス素子は、電源を切っても情報が保持される不揮発性メモリや不揮発性論理演算素子への応用の期待が高まっている。スピントロニクス素子実現に向けて課題となっているのは、いかに低電力で磁化方向を制御できるかという、情報の「省エネルギー書き込み」技術である。
  3. 研究グループは今回、膜厚が数原子層程度のコバルト鉄ボロン (CoFeB) からなる磁性層を、タンタル (Ta) 金属層と酸化マグネシウム (MgO) 絶縁層で挟んだ磁性ナノへテロ接合に電流を流したときの磁化に作用する力 (トルク) の大きさが各層の膜厚によってどのように変化するかを詳細に調べた。その結果、電流が誘起するトルクには、電流と平行な成分と直交する成分が存在することを発見した。さらに、Ta層の膜厚がわずか1 ナノメートル増えるだけでトルクの大きさが倍増することがわかった。トルクの大きさは電気的に磁化を制御するのに必要な電力に直結しており、大きければ大きいほど低電力で磁化反転を誘起できる。
  4. 今回の成果は、磁性ナノヘテロ接合においてスピンホール効果などのスピン流生成機構を利用した新たな磁化制御の基盤技術につながるものであり、不揮発性素子を適用した論理演算素子集積回路の高性能化・省電力化などへの応用が期待される。
  5. 本研究成果は、日本時間平成24年12月24日3 : 00にイギリスの科学雑誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開される。

「プレス資料中の図3:Ta/CoFeB/MgO磁性ナノへテロ接合に電流を流した際の磁化の動きを模式的に表したもの。スピンホール効果などによってスピン流が生成され、その一部が磁性層に進入すると、磁性層の磁化にトルクが作用する。今回、トルクが作用する方向や大きさを調べ、電流と平行な成分と直交する成分が存在することを発見した。電流を流していない時、磁化は膜面垂直方向を向いている。電流を流すと、磁化が面内方向に傾く ((a)図参照) のと同時に回転 ((b)図参照) を始める。イメージとして、水車の軸を磁化、水車を駆動する水を電子の流れとするとわかりやすい (実際に磁化が傾斜、回転する機構は、様々な効果が絡んだより複合的なものである。)」の画像

プレス資料中の図3:Ta/CoFeB/MgO磁性ナノへテロ接合に電流を流した際の磁化の動きを模式的に表したもの。
スピンホール効果などによってスピン流が生成され、その一部が磁性層に進入すると、磁性層の磁化にトルクが作用する。今回、トルクが作用する方向や大きさを調べ、電流と平行な成分と直交する成分が存在することを発見した。電流を流していない時、磁化は膜面垂直方向を向いている。電流を流すと、磁化が面内方向に傾く ((a)図参照) のと同時に回転 ((b)図参照) を始める。イメージとして、水車の軸を磁化、水車を駆動する水を電子の流れとするとわかりやすい (実際に磁化が傾斜、回転する機構は、様々な効果が絡んだより複合的なものである。)