患者が手で押さえるだけで薬が放出される新しいドラッグデリバリーシステム
電気も水も特殊な装置も不要な未来型薬物投与法を目指して
2013.03.01
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の有賀 克彦主任研究者、川上 亘作MANA研究者、井澤 浩則 ポスドク研究員 (現・国立大学法人鳥取大学助教) らの研究グループは、人が与える力に応答して薬物を放出するゲル材料の開発に成功しました。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の有賀 克彦主任研究者、川上 亘作MANA研究者、井澤 浩則 ポスドク研究員 (現・国立大学法人鳥取大学助教) らの研究グループは、人が与える力に応答して薬物を放出するゲル材料の開発に成功しました。
- 薬物投与は経口摂取や注射などによるものが一般的ですが、一般的な投与法では副作用や利便性の点で問題となることがあります。刺激応答性ドラッグデリバリーシステムは、そのような問題を解決する有用な手段ですが、刺激を与えるために特殊な装置が必要となります。
- 我々は、患者自身が自ら力を加えることで薬物が放出される新しい投薬法を想定したゲル材料を開発しました。このゲルに制吐剤であるオンダンセトロンを保持させ、患者による指圧を想定した刺激を与えると、それに応じて薬物が放出されることを確認しました。この効果は、少なくとも3日間持続することが分かりました。抗がん剤治療時に吐き気を催している患者が、口から薬物を摂取することは困難です。しかしこの材料を皮下に埋め込めば、それを押したりさすったりするだけで薬物が放出されると期待されます。
- 本材料は特殊な機械や電気などを必要としないため、実用化されれば、災害のためにライフラインが途絶えた環境や、もともとライフラインが整備されていない発展途上国などでも、利用が可能です。また患者が自分の意思で、どのような環境下にあっても、薬物投与ができます。他にもガンの痛み緩和や花粉症、喘息など、患者の意思で速やかに薬物投与を行いたい状況は多く想定できます。本材料は、利便性に極めて優れた新しい薬物投与形態を提案するものです。
- ゲルは、藻類などに含まれる天然由来成分であるアルギン酸を、糖類の一種であるシクロデキストリンで架橋することにより作製しました。これらは、いずれも医薬品に既に利用されている材料です。シクロデキストリンがホストとなり、これに薬物がゲストとして取り込まれます。ホスト-ゲスト相互作用の力学刺激による制御は、過去に報告がありません。
- 今回の成果は、JST-CREST「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域 (研究総括 : 入江 正浩) の研究課題「ナノとマクロをつなぐ動的界面ナノテクノロジー」 (研究代表者 : 有賀 克彦) において得られました。
- 本研究成果は、英国の科学雑誌「Journal of Materials Chemistry B」のオンライン速報版に近く公開されます。