リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

リチウムイオン電池新規負極材料の電極設計の再考

2013.03.27


独立行政法人物質・材料研究機構
公立大学法人首都大学東京

NIMS ナノ材料科学環境拠点(GREEN)と首都大学東京の研究グループは、リチウムイオン電池用負極材料であるシリコンの1粒子の充電反応に伴う体積膨張を実測することに成功し、その知見に基づいた体積エネルギー密度という観点からの電極設計の重要性を示した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) ナノ材料科学環境拠点(GREEN)の金村 聖志特別研究員、西川 慶博士研究員らの研究グループは、首都大学東京 (学長 : 原島 文雄) との共同研究として、リチウムイオン電池用負極材料であるシリコンの1粒子の充電反応に伴う体積膨張を実測することに成功し、その知見に基づいた体積エネルギー密度という観点からの電極設計の重要性を示した。
  2. リチウムイオン電池は、正極にリチウム含有金属酸化物、負極にグラファイトを用いた二次電池であり、ニッケル水素電池などの他の二次電池に比べ、高いエネルギー密度を有するため、モバイル電子機器の電源として広く普及しており、自動車用途や定置型蓄電装置として大きな期待を集めている。現在、負極電極材料としてグラファイトが使用されているが、更なる高エネルギー密度化のために、シリコンに代表されるリチウムとの合金化反応を利用した材料が次世代材料として注目されている。その実用化に向けて、充放電反応に伴う大きな体積変化のメカニズムの解明、およびそのコントロールが最重要課題である。
  3. 首都大学東京の研究グループは、リチウムイオン電池用電極材料の1粒子に対し、電気化学測定を行う、いわゆる単粒子測定システムの技術を確立した。本研究では、同システムを物質・材料研究機構ナノ材料科学環境拠点の超乾燥実験室に導入し、次世代負極材料と目されるシリコンの1粒子(10~20μm)に対し、電気化学測定を行った。これまで充放電反応に伴う体積変化の定量評価は行われておらず、理論的な結晶サイズからその膨張率などが推定されてきたが、本研究結果はシリコン粒子の充電反応に伴う膨張の実測に成功した世界で初めての例である。
  4. 実験の結果、充電反応に伴うシリコンの体積膨張は、理論的に推定されてきた値より大きな膨張を示すことが明らかとなった。これは、リチウムとシリコンの合金化反応がアモルファス相などを形成しながら進むためと考えられるが、その詳細なメカニズムについては、更なる検討が必要である。現在、自動車用途や携帯電話用途でのリチウムイオン電池の規格が定められ、従来、評価の中心であった質量あたりのエネルギー密度から、体積当たりのエネルギー密度がより重要視されつつある。本研究結果に示されたような、想定されていた値より大きな体積膨張を示すシリコンにおいては、実エネルギー密度の低下につながり、次世代の電池材料候補を探索するうえで、体積膨張の実測というものの重要性が示された。
  5. 以上のように、充放電体積変化を伴う材料をリチウムイオン電池の電極に採用する際には、実際の体積エネルギー密度を測定することの重要性が示されたことから、リチウムイオン電池の次世代材料探索の研究開発には、体積変化をも考慮した電極設計指針が必要である。
  6. 本研究成果は、3月29日、東北大学で開催される電気化学会第80回大会において発表される。

「プレス資料中の図2 : 充電に伴うシリコン粒子の膨張。 3nAの電流を印加しながら、シリコン粒子の膨張過程を観察した様子。プローブ先端には銅メッキを施しており、先端が銅褐色になっている。プローブと接触した黒色のシリコン粒子 (一部金属光沢を有する) が、充電に伴い膨張する。 (赤丸中)」の画像

プレス資料中の図2 : 充電に伴うシリコン粒子の膨張。 3nAの電流を印加しながら、シリコン粒子の膨張過程を観察した様子。プローブ先端には銅メッキを施しており、先端が銅褐色になっている。プローブと接触した黒色のシリコン粒子 (一部金属光沢を有する) が、充電に伴い膨張する。 (赤丸中)