光学純度を容易に決定できる新しいキラルセンシング技術の開発に成功

医薬品合成での安全性確保を容易に可能とするなどへの応用に期待

2013.07.17


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のヤン ラブタMANAリサーチアソシエートとジョナサン ヒルMANA研究員らの研究グループは、キラリティーおよび光学純度を簡便に測定するための新技術を開発することに成功しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) 超分子ユニット (ユニット長 : 有賀 克彦) のヤン ラブタMANAリサーチアソシエートとジョナサン ヒルMANA研究員が率いる研究グループは、若手国際研究センター (センター長 : 宮野 健次郎) の石原伸輔ICYS-MANA研究員およびカレル大学 (チェコ共和国) の研究者らと共同で、キラリティーおよび光学純度を簡便に測定するための新技術を開発することに成功しました。本手法は簡便かつ実用性に優れ、高い汎用性も有していることを実証しています。
  2. 分子には、右手と左手のように、形は同じだがお互い重なり合わせることの出来ない鏡像対称のものが存在し、これをキラリティーと呼びます。2つの間では同じ化学式にもかかわらず、有機分子や生体分子の特性や生理活性が全く異なります。例えば、ブピバカインという分子では、左手に対応する分子は鎮痛剤として有効ですが、右手に対応する分子は心毒性を示します。従って、キラリティーを見分けたり、またその光学純度を決定したりするキラルセンシング技術はとても重要です。
  3. 光学純度はキラル分子の重要なパラメータのひとつであり、右手型と左手型の相対比を表わすものです。特に、製薬においては、医薬品の品質管理に加えて、合成各段階においても光学純度を決定し、製造工程を最適化することが重要であり、簡便かつ安価な手法の開発が求められています。
  4. 今回の研究では、核磁気共鳴分光法 (NMR) および独自開発の対称構造型ポルフィリン試薬を用いることで、光学純度を決定するための新しい技術を開発することに成功しました。本研究の最大の特徴は、キラル構造を有さない対称構造型ポルフィリン試薬を用いることであり、この分子はキラルな測定対象物 (例えば、医薬品分子) と結合しても構造異性体 (ジアステレオマー) ) を形成しません。この特徴は、従来型の類似研究と明確に差別化されます。本手法のメカニズムは、ポルフィリン試薬の構造対称性が、キラルな分子の結合によって崩れることに基づいていることを、結合平衡モデル式および、量子力学計算、分子動態シミュレーションより解明しました。また、今回開発した対称構造型ポルフィリン試薬は、高い汎用性を有しており、キラルなカルボン酸、エステル、保護アミノ酸、ケトン、アルコールなどの多様なキラル分子の光学純度を測定できる万能性も有しています。
  5. 本手法を用いることで、簡便かつ迅速な光学純度決定が可能なことから、製薬業界などでの使用が期待されます。また、本技術は、測定法および試薬にキラルな要素を全く含まないことから、不斉合成やキラル増幅反応などのリアルタイム解析に適していると期待されます。従来法では、不斉合成やキラル増幅反応に悪影響を与えることが懸念されていました。
  6. 従来型のキラルな分子から成る試薬 (NMRキラルシフト試薬) と区別するため、今回開発された新規キラルセンサー分子をプロキラル型NMRキラルシフト試薬と命名しました。
  7. 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版で日本時間平成25 年7月17日18:00 (現地時間17日10:00) に公開されます。

「プレス資料中の図1: 図1. (a) 独自開発したプロキラル型NMRキラルシフト剤である構造対称なポルフィリン試薬。 (b) プロキラル型NMRキラルシフト剤を用いて、光学純度を求めることが出来た多種多様なキラル分子の例。(c) ポルフィリン誘導体とキラルな分子から成る1 : 1型錯体の模式図。」の画像

プレス資料中の図1: 図1. (a) 独自開発したプロキラル型NMRキラルシフト剤である構造対称なポルフィリン試薬。 (b) プロキラル型NMRキラルシフト剤を用いて、光学純度を求めることが出来た多種多様なキラル分子の例。(c) ポルフィリン誘導体とキラルな分子から成る1 : 1型錯体の模式図。