京コンピュータを用いてリチウムイオン電池電解液の還元反応機構を解明

リチウムイオン電池の性能と安全性向上に向けた計算機材料設計の道を拓く

2013.08.01


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の館山 佳尚グループリーダーの研究グループは、富士フイルム株式会社と共同で、京コンピュータ上で化学反応シミュレーションを実行し、リチウムイオン電池の性能と安全性の鍵となる電解液の還元分解および電解液と電極の界面における被膜形成の反応機構を分子レベルで明らかにすることに成功しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の館山 佳尚グループリーダーの研究グループは、富士フイルム株式会社と共同で、京コンピュータ上で化学反応シミュレーションを実行し、リチウムイオン電池の性能と安全性の鍵となる電解液の還元分解および電解液と電極の界面における被膜形成の反応機構を分子レベルで明らかにすることに成功しました。
  2. 身近なパソコンやスマートフォンなどに広く利用されているリチウムイオン電池ですが、近年電気自動車や飛行機、またスマートグリッドに関連した定置用蓄電池などの大型リチウムイオン電池の開発も盛んになってきました。しかし、必要とされる容量などの高性能化と高信頼性や長寿命などの安全性の両立にはまだ多くの技術的課題があります。この性能と安全性の鍵となるのが、電池の重要な構成要素である電解液の還元分解とその分解物による電極界面の被膜 (Solid Electrolyte Interphase: SEI膜) 形成です。このSEI膜の機能は、微量の添加剤の導入により著しく改善することが既に知られていますが、SEI膜形成の反応過程は実験的な直接観察をすることが難しく、いまだに分かっていません。今後、高性能かつ高安全性を持つリチウムイオン電池を実現するための材料開発に向けて、この反応機構の解明が強く望まれていました。
  3. 本研究では、高精度な計算が可能な第一原理分子動力学法と液体中の化学反応の自由エネルギー計算手法を融合させた計算技術を世界で初めてリチウムイオン電池に適用することにより、リチウムイオン電池の典型的な電解液材料であるエチレンカーボネート(EC)と添加剤としてよく用いられるビニレンカーボネート(VC)の還元分解過程と、SEI膜の素材となる重合過程を分子レベルで明らかにしました。これらの反応機構は添加剤によりSEI膜の性能と安全性がなぜ向上するのかという原理も示すものとなっています。また、本研究は、一般のスーパーコンピュータでは実施が困難でしたが、京コンピュータを利用することにより高精度な化学反応シミュレーションを短期間で実行することができました。
  4. 本研究成果は、いまだに謎が多いリチウムイオン電池の電解液分解と SEI膜形成過程の理解を増進し、高機能なSEI膜の設計・開発を促進すると考えられます。また更なる京コンピュータ上での高精度化学反応シミュレーションの実行により、大型リチウムイオン電池等に必要な高性能かつ高安全性をもたらす新しい電解液や添加剤の計算機材料設計が今後急速に進められることが期待されます。
  5. 本研究は独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業・個人型研究 (さきがけ) : 「エネルギー高効率利用と相界面」研究領域 (研究総括 : 笠木伸英) の一環として行われ、独立行政法人理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を利用しました。本研究成果は平成25年8月1日 (米国東部時間) に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で公開されます。

「プレス資料中の図3.  (a)  添加剤がないEC溶媒のみの場合のSEI形成反応機構、(b) VC添加剤の役割として従来考えられてきた反応機構、(c) 本研究が明らかにしたVC 添加剤導入による機能の向上したSEIの形成機構。」の画像

プレス資料中の図3. (a) 添加剤がないEC溶媒のみの場合のSEI形成反応機構、(b) VC添加剤の役割として従来考えられてきた反応機構、(c) 本研究が明らかにしたVC 添加剤導入による機能の向上したSEIの形成機構。