イリジウム化合物CuIr2S4が示す新奇な磁性

スピン・軌道相互作用研究の新しい舞台

2014.02.26


大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
独立行政法人 物質・材料研究機構

KEK物質構造科学研究所ミュオン科学研究系の研究グループは、NIMS先端的共通技術部門量子ビームユニットの鈴木博之主幹研究員、北澤英明ユニットリーダーらと共同で、ミュオン・スピン回転法という分析方法を用いて、レアメタルの一種であり、原子番号が大きな遷移金属であるイリジウムの化合物のひとつ、Cu1-xZnxIr2S4の新たな磁気的な性質を発見しました。

概要

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 (機構長 鈴木厚人、以下「KEK」) 物質構造科学研究所ミュオン科学研究系の小嶋健児 (こじま けんじ) 准教授、門野良典 (かどの りょうすけ) 教授らの研究グループは、独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 潮田資勝、以下「NIMS」) 先端的共通技術部門量子ビームユニットの鈴木博之 (すずき ひろゆき) 主幹研究員、北澤英明 (きたざわ ひであき) ユニットリーダーらと共同で、ミュオン・スピン回転法という分析方法を用いて、レアメタルの一種であり、原子番号が大きな遷移金属であるイリジウムの化合物のひとつ、Cu1-xZnxIr2S4の新たな磁気的な性質を発見しました。CuIr2S4は、従来信じられていたように非磁性状態ではなく、約100 K (-173℃) 以下の低温で新奇な磁性を示すこと、またその磁性がわずかな亜鉛の置換により急激に消失することを発見したものです。

この新奇な磁性相では、イリジウム磁気モーメントの大きさが通常の10分の1以下に減少するとともに、その向きについても強い乱れを伴っており、結晶構造だけからは予想できない磁気的フラストレーションを伴っていると考えられます。今回の結果は、従来CuIr2S4で見落とされていたスピン・軌道相互作用の重要性を初めて実験的に明らかにするとともに、この物質が遷移金属におけるスピン・軌道相互作用の新たな研究の舞台となることを示したものとして今後の進展が期待されます。

本成果は、2014年2月24日付(米国東部時間)に米国学術誌「Physical Review Letters」のオンライン版で公開される予定です。


「プレス資料中の図2 CuIr2S4におけるイリジウム(Ir)イオンの骨格構造。立方体の4つの頂点 (四面体を形成) にIrイオンがある。絶縁体状態 (<230 K) では図のように4価のIrイオン八量体が形成され、さらに3種類あるIr間の結合 (緑、青、赤) のうち1種類の距離が数%も縮む。星形は4価のIrイオンで、d軌道のひとつdxy軌道状態を模式的に示したもの。 (Khomskii & Mizokawa, Phys. Rev. Lett. 94, 156402 (2005)より)」の画像

プレス資料中の図2 CuIr2S4におけるイリジウム(Ir)イオンの骨格構造。立方体の4つの頂点 (四面体を形成) にIrイオンがある。絶縁体状態 (<230 K) では図のように4価のIrイオン八量体が形成され、さらに3種類あるIr間の結合 (緑、青、赤) のうち1種類の距離が数%も縮む。星形は4価のIrイオンで、d軌道のひとつdxy軌道状態を模式的に示したもの。 (Khomskii & Mizokawa, Phys. Rev. Lett. 94, 156402 (2005)より)