巨大分子の第一原理シミュレーションの実現

- 従来に比べ2桁以上大きな原子数を扱える大規模計算 -

2014.12.08


独立行政法人 物質・材料研究機構
University College London

NIMS先端的共通技術部門の宮崎剛グループリーダーと英国University College London, London Centre for Nanotechnology の Dr. David Bowler (NIMS-MANA併任) からなる研究チームは、従来に比べ2桁以上多くの原子数を扱える大規模な第一原理シミュレーション手法の開発に成功しました。これにより、これまで不可能だった生体分子やナノ構造物質などの複雑な物質に対する原子・電子シミュレーションが可能となりました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 先端的共通技術部門 (部門長 : 藤田大介) の宮崎剛グループリーダーと英国University College London, London Centre for Nanotechnology の Dr. David Bowler (NIMS-MANA併任) からなる研究チームは従来に比べ2桁以上多くの原子数を扱える大規模な第一原理シミュレーション手法の開発に成功しました。これにより、これまで不可能だった生体分子やナノ構造物質などの複雑な物質に対する原子・電子シミュレーションが可能となりました。
  2. 物質は数多くの原子から成り立っており、物質の性質は原子の間に働く力や電子によって決まります。そして、原子同士の力や電子の振る舞いは量子力学によって記述されます。量子力学にもとづく第一原理シミュレーションは物質・材料の様々な現象を原子・電子レベルで明らかにできる強力な手法ですが、従来の理論では、複雑かつ大規模な数値計算が必要となり、計算できる系のサイズが極めて小さい (通常数百原子程度) という問題がありました。
  3. 当研究チームでは、大規模なシミュレーションを高効率で行うことができる計算手法の実現を目指してきましたが、今回、極めて高い精度での数値計算を実現しうる新たな技術を導入し、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」や東京大学のスーパーコンピュータFX10を用いる事によって、従来に比べて2桁ほども上まわる3万原子を越える巨大系に対して第一原理シミュレーションを行うことに成功しました。今回の成功により、将来百万個の原子・電子シミュレーションへの目処が立ったと言えます。
  4. 今後、本研究手法による大規模シミュレーション手法を用い、従来の方法では計算不可能であった巨大生体分子やナノ構造物質の原子・電子の振る舞い、複雑な界面における欠陥や不純物の制御方法等を理論研究で明らかにしていくことを目指します。これらの研究は今後、創薬や次世代デバイスの開発に役立つ事が期待されます。
  5. 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 新学術領域研究『コンピューティクスによる物質デザイン』 (領域代表 : 東京大学工学部 押山淳) および文部科学省HPCI戦略プログラム (SPIRE) 分野2『新物質•エネルギー創成』(代表 : 常行真司)の一環として行われました。スーパーコンピュータによる計算には理化学研究所計算科学研究機構のスーパーコンピュータ「京」 (課題番号: hp120300, hp120301, hp130004, 140066) 、および東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータFX10 (課題番号: hp140224) が使われました。
  6. 本研究成果はJournal of Chemistry Theory and Computation誌の2014年12月9日発行号 (Vol. 10 issue 12、DOI : 10.1021/ct500847y) にて掲載されます。

「プレスリリースの図2 : 本研究における計算手法を用いて行った、水溶媒中のDNAに対する第一原理シミュレーションによるスナップショット構造。原子の間に働く力は第一原理計算によって計算されている。 (理研との共同研究)」の画像

プレスリリースの図2 :
本研究における計算手法を用いて行った、水溶媒中のDNAに対する第一原理シミュレーションによるスナップショット構造。原子の間に働く力は第一原理計算によって計算されている。 (理研との共同研究)