超分子カーボン材料のパターン化による細胞の分化制御に成功

— 再生医療の実現にむけて、足場材料の大面積化を可能にする技術の開発 —

2015.06.03


国立研究開発法人 物質・材料研究機構

NIMS MANA研究者らは、炭素材料の1つであるフラーレンの柱状結晶を用いて、細胞培養の足場となる材料の表面に、ナノスケールのパターンを形成することに成功しました。さらにこの足場材料が、筋芽細胞の成長と分化の制御が可能であることを実証しました。

概要

  1. 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 超分子ユニットの南 皓輔 研究員、有賀 克彦 ユニット長と、生体機能材料ユニットの山崎 智彦 MANA研究者らは、炭素材料の1つであるフラーレンの柱状結晶を用いて、 (1) 水面に浮かべ、 (2) 圧縮し、 (3) 基板に転写する、というわずか3ステップの簡便な方法で、細胞培養の足場となる材料の表面に、ナノスケールのパターンを形成することに成功しました。さらにこの足場材料が、筋芽細胞の成長と分化の制御が可能であることを実証しました。細胞の分化制御が可能な足場材料を容易に大面積化できる技術として、本研究成果は、再生医療の発展に大きく貢献することが期待されます。
  2. 再生医療の実現にむけて、生体組織を生体外で構築するために細胞培養の足場となる材料の開発が求められています。なかでも、細胞の分化を誘導・制御できる足場材料の開発は、生体組織の構築および機能発現において必要不可欠です。細胞の分化を誘導・制御する手法としては、生理活性物質などを直接培養液に加える手法が主流でしたが、近年、足場材料の表面に小さな溝を一定方向に形成するなど、ナノからマイクロメートルサイズのパターン化した三次元構造を形成することにより、細胞の分化を誘導・制御できることが報告されています。
  3. 効率的に細胞を培養し組織を構築するためには、細胞の分化が誘導・制御でき、かつ、なるべく大きな面積の足場材料が必要です。しかし、これまで足場材料の表面に三次元パターンを形成する技術として報告されてきた、リソグラフィー技術や光架橋ゲル、高分子材料による表面皮膜などは、煩雑な手法や多くの作製ステップを有するなどの課題があり、足場材料の大面積化が困難でした。
  4. 本研究グループでは、細胞分化を誘導させる材料として着目されているフラーレンの柱状結晶 (フラーレンウィスカー) を用いることで、表面がパターン化された足場材料を、センチメートルスケールの大面積で作成することに成功しました。この手法は、フラーレンウィスカーを水面に浮かべ、圧縮することで一列に並べ、基板に転写するだけで、足場材料の表面にナノスケールのパターンを形成することができるという、非常に簡便な方法です。さらに、フラーレンウィスカー足場材料は、生体適合性が高く、筋芽細胞を培養すると筋管細胞へと分化が誘導されるとともに、一定方向にそろって成長して行くことがわかりました。すなわち、細胞の分化を誘導できるフラーレンを使って、表面が一次元パターン化された足場材料を作製することにより、筋芽細胞の分化と筋組織としての機能化を促進できることが示唆されました。
  5. 本研究で用いた手法は、足場材料の大面積化が容易であることから、数cm2~数十cm2の面積を必要とする再生医療での応用が可能です。また、本研究で開発した足場材料は、筋肉細胞に限らず、骨細胞や幹細胞の分化も誘導・制御できると考えられることから、これからの再生医療研究に大きく貢献すると期待されます。
  6. 本研究成果は、国際学術誌「Advanced Materials」のオンライン電子版にて2015年6月2日 (火) に公開される予定です。

「プレスリリースの図2 :  フラーレンウィスカー足場材料上での細胞挙動。a. ガラス基板上とフラーレンウィスカー足場材料上で伸長した細胞の蛍光顕微鏡観察像。b. フラーレンウィスカー足場材料上で形成した筋管細胞の蛍光顕微鏡観察像。蛍光染色した筋管細胞 (左) とその下にあるフラーレンウィスカー (右) 。フラーレンウィスカーが斜めに配向している方向にそって筋管細胞も斜めに配向している様子が認められる。」の画像

プレスリリースの図2 :  フラーレンウィスカー足場材料上での細胞挙動。a. ガラス基板上とフラーレンウィスカー足場材料上で伸長した細胞の蛍光顕微鏡観察像。b. フラーレンウィスカー足場材料上で形成した筋管細胞の蛍光顕微鏡観察像。蛍光染色した筋管細胞 (左) とその下にあるフラーレンウィスカー (右) 。フラーレンウィスカーが斜めに配向している方向にそって筋管細胞も斜めに配向している様子が認められる。