エタノール燃料から常温常圧で電力を取り出せる触媒を開発
—カーボンニュートラル社会へのブレイクスルー—
2015.05.21
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
NIMS阿部英樹 研究員は、GREEN野口秀典 研究員、および東北大学原子分子材料科学高等研究機構の藤田武志 准教授と共同で、常温常圧のエタノール燃料から有毒排気ガスの発生を伴わずに効率よく電力を取り出すことができる新しい触媒材料の開発に成功しました。
概要
- 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) (以下「NIMS」という) 阿部英樹 研究員は、ナノ材料科学環境拠点 (以下「GREEN」という) 野口秀典 研究員、および東北大学原子分子材料科学高等研究機構の藤田武志 准教授と共同で、常温常圧のエタノール燃料から有毒排気ガスの発生を伴わずに効率よく電力を取り出すことができる新しい触媒材料「TaPt3 (タンタルプラチナ) ナノ粒子触媒」の開発に成功しました。
- エタノール燃料はサトウキビやトウモロコシなどバイオマスを発酵して生産できるため、化石燃料に代わる再生可能エネルギー源として有望です。しかしながら、ディーゼルエンジンなど内燃機関でエタノール燃料を使用する際には、数百℃の高温で空気と燃料を反応させる過程が含まれるため、毒性排気ガス (NOx・CO) の発生が避けられません。そこで、内燃機関での利用に代わり、常温近傍で動作するポリマー電解質膜燃料電池 (PEMFC) での利用を目指した研究が進められています。
- PEMFC用燃料としてエタノールを利用する際に問題になるのが、エタノールが持つ炭素 - 炭素結合です。従来のPEMFC電極触媒は、エタノール分子の炭素 - 炭素結合を効率よく切断することができないため、エタノール分子に含まれる化学エネルギーを利用し尽くすことはできませんでした。
- 今回研究グループでは、タンタル (Ta) とプラチナ (Pt) を組み合わせた新触媒「TaPt3ナノ粒子」を開発しました。この触媒を用いると、常温・常圧の水中において効率よくエタノール分子の炭素—炭素結合を切断できることを確認しました。さらにTaPt3ナノ粒子触媒は、炭素 - 炭素結合を切断した結果発生する、人体に有害な一酸化炭素を、無害な二酸化炭素まで完全に酸化できることが分かりました。
- このように、今回開発した触媒を用いることで、従来の触媒に比べて10倍以上の電流密度を達成し、毒性排気ガスの発生を伴うことなくエタノール燃料から効率よく電力を生みだすことが可能となりました。TaPt3ナノ粒子は、バイオマス燃料技術との協働によって、カーボンニュートラル社会実現へのブレイクスルーを果たすと期待されます。
- 今回の研究成果は、JSTさきがけ「元素戦略と新物質科学」の援助により得られました。本研究成果は、英国王立学会刊行のEnergy and Environmental Science誌に、2015年5月27日 (現地時間) に正式掲載の予定です。