世界最高磁場※のNMR装置 (1020MHz) の開発に成功

高温超伝導体の応用が決め手 新薬創製・新物質開発の高速化にむけて大きな前進

2015.07.01
(2015.07.02 更新)


国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
国立研究開発法人 理化学研究所 (理研)
株式会社神戸製鋼所 (神戸製鋼)
日本電子株式会社 (JEOL)
国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST)

NIMS、理研、株式会社神戸製鋼所および株式会社JEOL RESONANCEからなる研究チームは、JST 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超1 GHz -NMRシステムの開発」の一環として、1020MHzという世界で最も強い磁場を発生できる超高磁場NMR装置の開発に成功しました。

概要

国立研究開発法人物質・材料研究機構、国立研究開発法人理化学研究所、株式会社神戸製鋼所および株式会社JEOL RESONANCE (日本電子株式会社の連結子会社) からなる研究チームは、国立研究開発法人科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超1 GHz -NMRシステムの開発」の一環として、1020MHzという世界で最も強い磁場を発生できる超高磁場NMR (核磁気共鳴) 装置の開発に成功しました (図1) 。また、この装置を使って実際に測定を行い、従来のNMRに比べて感度と分解能が著しく向上していることを確認しました。

NMR装置はタンパク質などの生体高分子の立体構造解析、有機化学や材料研究など幅広い分野で使用されています。特に新薬創製のためには欠かすことのできない装置の一つです。新薬の開発にはより速く正確にタンパク質の構造を決定することが重要であり、このためにはNMR装置の性能向上が必要不可欠です。そのような中、NMR装置においては磁場強度が重要な指標の一つとなっており、磁場1000MHzを超える熾烈な開発競争が行われてきました。かねてから、高温超伝導技術を用いれば1000MHzを超えられると考えられていましたが、高温超伝導体は割れやすく加工しにくいなど様々な課題があり世界的にも長期間実現には至っていませんでした。

本研究チームは、1988年にNIMSで開発された高温超伝導体を線材化するなど複数の新技術の開発を経て、このたびNMR装置として世界最高磁場となる1020MHzを達成しました。構想から20年。東日本大震災で被った完成直前の損壊による開発中断、世界的なヘリウム供給危機、さらにはチームリーダーの急死など、度重なる苦難を乗り越えた末、建設開始後8年を経て今回の目標達成に至りました。

超高磁場NMRは、構造生物学、分析化学、材料工学などの諸分野に大きく貢献することが期待されます。また、NMRは磁場発生装置の中では最も精密な性能が要求される装置であり、NMR開発で培われた高温超伝導技術は、MRI (核磁気共鳴画像法) 、核融合、リニアモーターカー、超伝導送電線などさまざまな先端機器に応用可能です。

本研究成果の一部は、2015年5月15日にJournal of Magnetic Resonance誌に掲載されたほか、NMR分野最大の国際会議 (Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference、4月19-24日米国で開催) や「第57回固体NMR・材料フォーラム (2015年5月21日開催) 」において発表されました。

※ 世界最高磁場 : 1020MHz (24.0テスラ) 2015年4月17日時点

「プレスリリースの図1 :  今回開発した1020MHz-NMR装置のうち超伝導磁石の部分。高さ約5m、重さ約15トン。この中に高温超伝導体で作られたコイルが入っています。液体ヘリウムを使って冷却しています。」の画像

プレスリリースの図1 :  今回開発した1020MHz-NMR装置のうち超伝導磁石の部分。高さ約5m、重さ約15トン。この中に高温超伝導体で作られたコイルが入っています。液体ヘリウムを使って冷却しています。