鉄系超伝導体に添加した亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認
鉄系超伝導のメカニズム解明の大きな一歩
2015.07.09
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 (NIMS)
NIMSとルーヴェン・カトリック大学の研究者らからなる研究チームは、鉄系超伝導体に添加した微量の亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) 超伝導物性ユニットの李 軍 (元NIMSジュニア研究員) 、王 華兵 (主幹研究員) 、山浦一成 (主席研究員) とルーヴェン・カトリック大学 (ベルギー) の研究者らからなる研究チームは、鉄系超伝導体に添加した微量 (3%) の亜鉛元素が超伝導対を破壊することを確認しました。この成果は、鉄系超伝導体のメカニズムの解明にむけた大きな一歩であり、高性能な超伝導材料の開発への貢献が期待されます。
- 鉄系超伝導体に関する研究は世界的に推進されていますが、超伝導状態が発現するメカニズムについて十分なレベルで解明されていないのが現状です。特に、微少量 (数%) の不純物によって超伝導がどのように変化するか (不純物効果) を正確に観測することは、超伝導発現機構の解明に向けて重要だと考えられています。鉄系超伝導体の結晶に亜鉛を微小量 (数%) 添加すると、その添加量に依存して超伝導転移温度が低下することが、これまでの研究で明らかになっていました。しかし、その転移温度の低下が理論的に予見される超伝導対の破壊によるものか、あるいは、結晶の乱れの程度が増加したことによる、何らかの影響によるものかが明確ではありませんでした。
- 本研究チームは、亜鉛を3%含有する鉄系超伝導体の結晶に微細加工を施して100ナノメートル四方程度の断面を持つ極めて微小な棒状結晶を作成しました。この棒状結晶を冷却して、電圧 - 電流特性を調べたところ、規則的なステップを伴う超伝導転移を観測しました。一方、亜鉛を添加しなかった場合では、超伝導の通常の一段転移を観測しました。すなわち、亜鉛を添加した結晶では超伝導の領域が大幅に狭まっていることが示唆されました。全ての実験結果を解析・考察した結果、結晶中の亜鉛元素を中心とする局所的な非超伝導領域が生まれ、それが点在するため、実質的な超伝導領域が空間的に大幅に狭まり、超伝導の量子的な特徴が顕在化したと考えられます。つまり、結晶に添加した亜鉛元素が超伝導対を破壊する様子を間接的に観測したことになります。
- 鉄系超伝導体の転移温度が、数%程度の亜鉛の添加量に依存して低下したこれまでの観測結果は、何らかの結晶の乱れの影響などではなく、亜鉛元素が直接的に超伝導対を破壊したことが支配的な要因だと思われます。少なくとも、亜鉛元素が局所的に超伝導対を破壊することが確かめられました。この実験結果は、鉄系超伝導体の発現機構解明に向けた着実な一歩であり、高性能な超伝導材料の開発、社会的要請が高い超伝導基盤技術の確立に貢献します。
- 本研究は、主に最先端研究開発支援 (FIRST) プログラム (中心研究者 : 細野秀雄) のサブテーマ“超高圧合成を活用した新規超電導体の探索 (室町英治) ” (平成26年3月31日終了) とNIMS第3期中期計画プロジェクト“先端超伝導材料に関する研究 (宇治進也) ”のもとで実施されました。本研究成果は、オンライン誌“ネイチャーコミュニケーションズ (Nature Communications) ”にて2015年7月3日に掲載されました。