シャボン膜を利用するナノスケール無機自立膜の製造

従来のリソグラフィー法とは異なる簡便なプロセスを実現

2007.08.06


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSナノ有機センターは、半導体材料センターと共同で、基板に配列したミクロンオーダーの穴の内部に無機物質の自立膜を製造するための簡便なプロセスを開発することに成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) ナノ有機センター (センター長 : 一ノ瀬 泉) 機能膜グループの一ノ瀬 泉 グループリーダー、ジン 健 (Jin Jian) 主任研究員、彭 新生 (Peng Xinsheng) ICYSフェローは、半導体材料センター (センター長 : 知京 豊裕) 半導体デバイス材料開発グループの若山 裕 主席研究員と共同で、基板に配列したミクロンオーダーの穴の内部に無機物質の自立膜を製造するための簡便なプロセスを開発することに成功した。
  2. 自立膜は、センサーや表示デバイスなどの基本的な構造要素である。特に、ナノメートル厚みの自立膜は、金属や半導体のナノ物性の解明、あるいはMEMSなどの先端デバイスの実現のために盛んに研究されるようになってきた。しかしながら、ミクロンオーダーの自立膜の製造には、一般にフォトリソグラフィー法が用いられており、デポジション、パターニング、エッチングなどの操作を繰り返す必要があった。また、ナノスケールの自立膜は、分子やイオンの分離膜としても期待が集まっており、安価で簡便、かつ環境負荷が小さな製造プロセスの開発が模索されてきた。
  3. 今回開発した方法では、規則的に配列した細孔の内部に双性イオン型の界面活性分子を用いてシャボン膜を形成し、これを乾燥して極薄の有機自立膜を形成させる。この膜の上に、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、熱蒸着法により様々な無機物質を蒸着させた結果、アモルファス性のカーボンやシリコンでは、1~100ナノメートル程度の均質な自立膜が得られることが実証された。また、金属 (Pt、Fe、In) や半金属 (Te) 、化合物半導体 (CdSe) などの自立膜を製造することも可能であり、複数の無機物質を積層化できることも実証された。界面活性分子の自立膜は、無機物質の蒸着に対して非常に安定であり、蒸着後は、水で容易に洗浄除去することができる。
  4. 本技術は、無機自立膜の極めて簡便な製造プロセスを与え、フォトリソグラフィーの代替方法として広く研究開発の現場で利用されることが期待できる。なお、今回の成果は、平成19年8月5日にNature Materials誌 (電子版) に掲載される。
    (論文 : J. Jin, Y. Wakayama, X. Peng and I. Ichinose “Surfactant-assisted fabrication of free-standing inorganic sheets covering an array of micrometre-sized holes” DOI number: 10.1038/nmat1980.)

「プレス資料中の図: ミクロンオーダーの穴の内部への乾燥泡膜の形成 (a) ならびに無機シートの形成 (b)」の画像

プレス資料中の図: ミクロンオーダーの穴の内部への乾燥泡膜の形成 (a) ならびに無機シートの形成 (b)