III-V族半導体中のドーピング原子から
エネルギーのそろった単一光子の発生に世界で初めて成功
III-V族半導体の等電子トラップからの単一光子発生を実証
2007.09.03
独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人筑波大学
NIMS半導体材料センターと筑波大学は共同で、III-V族化合物半導体のガリウムリン結晶中に形成した等電子トラップを使い、個々の等電子トラップからエネルギーの極めてそろった単一光子を発生させることに世界で初めて成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 、半導体材料センター (センター長 : 知京 豊裕) の佐久間 芳樹 主幹研究員と、国立大学法人筑波大学 (学長 : 岩崎 洋一) 大学院数理物質科学研究科の池沢 道男 講師・舛本 泰章 教授のグループは共同で、III-V族化合物半導体であるガリウムリン (GaP) 結晶中に形成した等電子トラップと呼ばれる準位に束縛された電子・正孔対 (以下、励起子) を使い、個々の等電子トラップからエネルギーの極めてそろった単一光子を発生させることに世界で初めて成功した。
- 従来の情報処理や通信技術の限界を超える革新的な技術として、量子力学の基本原理を利用した「量子情報通信技術」が世界的に注目されている。主要技術のひとつとして半導体量子ドットを使った単一光子源が研究されてきたが、量子ドットの形成過程で各々のドットのサイズが均一にならず、単一光子の発光エネルギーがばらついてしまうという問題があった。これに対して、半導体にドーピングした不純物を単一光子発生に利用するアイデアが注目され始めている。これまで、IV族結晶であるダイアモンド中の不純物と空孔による複合欠陥や、II-VI族のZnSe中の不純物を使った研究が報告されているが、III-V族半導体では成功していなかった。単一光子源を作るには、pn接合やヘテロ接合などの材料技術も必要であり、これらの要素技術が蓄積されているIII-V族半導体での実現が強く待ち望まれていた。
- 今回、III-V族半導体であるGaPの結晶中に窒素 (N) 原子をドーピングしたときに形成される2つの近接したN原子対による等電子トラップに着目し、個々のトラップを光学顕微鏡下で識別できる程度まで密度を希薄にする技術を開発して、ひとつの等電子トラップ準位からの励起子発光の性質を詳しく調べた。その結果、レーザー光によって生成された励起子が等電子トラップで捕獲されて発光する際、いずれのトラップでも同じ発光エネルギーを持つ単一光子 (波長541.5nmの緑色の光子) が発生していることを確認した。
- 本研究成果は、発光エネルギーのそろった単一光子源の開発を進めるうえで、その基礎となる半導体材料技術を実証したという点で意義が大きい。今後、このようなIII-V族半導体中の等電子トラップを用いた単一光子源が、量子情報通信技術の進展に大きく寄与するものと期待される。
- 本研究成果は、9月4日から開催の応用物理学会、9月21日から開催の日本物理学会、さらに応用物理学会論文誌JJAP Express Letters (46巻、36号) にて発表予定である。なお、本研究の一部は、 (独) 情報通信研究機構 (NICT) の国際共同研究助成「光・スピン変換による量子情報通信の研究」の一環として行われた。