プラズモン共鳴を利用した新しい赤外光源の開発に成功
ナノ構造による熱放射制御が高効率な環境測定への道を拓く
2008.01.18
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS量子ドットセンターは、ナルックス株式会社の池田賢元研究員らと共同で、金のプラズモン共鳴を利用した新しい赤外光源の開発に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 量子ドットセンター (センター長 : 迫田 和彰) の宮崎 英樹 主幹研究員らは、ナルックス株式会社 (代表取締役 社長 : 北川 清一郎) の池田 賢元 研究員らと共同で、金のプラズモン共鳴を利用した新しい赤外光源の開発に成功した。
- 赤外光を用いた分析手法は、空気中の二酸化炭素や窒素酸化物、液体中の有害物質の濃度を調べる環境測定において、重要な役割を果たしている。しかし、黒体光源の広い放射波長範囲の光から2つの波長の赤外光だけを取り出して分析に利用する従来の方式は、大部分の電力を不要な光の放射に費やすために低効率であった。必要な波長の赤外光だけを放射できる発光ダイオードやレーザーなどの素子は、環境測定に有用な波長2.5マイクロメートル以上の赤外領域では、出力やコストに問題があり、まだほとんど利用されていない。そのため、高効率な環境測定を可能とする、新しい赤外光源の開発が求められていた。
- 今回開発した赤外光源は、金の表面にナノサイズの溝を周期的に刻み込んだ熱放射光源である。溝を刻んだ金の表面を加熱すると、溝の内部で生じるプラズモン共鳴により、特定の波長の赤外光だけが効率良く放射される。その波長は、溝の幅・深さ・周期により自由に設定できる。しかも、本光源から放射される赤外光は直線偏光しているので、一つの光源上に2種類の周期溝を互いに直交するように集積化することにより、分析に必要な2つの波長の赤外光を直交した偏光として放射することができる。直交した偏光が容易に分離できることを利用して、試作した2波長光源を用い、液体に混入した有機溶媒の濃度を計測することにも成功した。
- 今回開発した赤外光源は、型転写による製造に適しており、将来は、金型からの複製により安価に大量生産できるようになると期待される。本光源では、投入した電力が分析に必要な波長の赤外光だけに変換され、従来の黒体光源のように無駄な放射に消費されることがないため、電池で動作する携帯型の環境測定機器の光源として特に有用である。かつて、人為的に改変できるものとは思われていなかった熱放射現象は、ナノ構造製造技術の進歩により、我々にとって完全に制御できる対象になろうとしている。
- 本研究の成果は、Applied Physics Letters誌の1月21日号に掲載される予定である。