超微細結晶粒鋼の靭性の逆温度依存性を発見

超高強度で衝撃に強い

2008.05.23


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS新構造材料センターは、特殊な合金元素を多量に添加することなく、衝撃を加えても壊れにくい超高強度鋼の開発に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 新構造材料センター (センター長 : 津﨑 兼彰) の木村 勇次 主任研究員らは、特殊な合金元素を多量に添加することなく、衝撃を加えても壊れにくい超高強度鋼の開発に成功した。更に、60℃から-60℃では温度が下がるほど鋼の衝撃吸収エネルギーが上昇する、既存鋼とは逆の靭性の温度依存性を見出した。
  2. 従来、金属材料の高強度化と靭性の向上はトレードオフの関係にある。耐力が1800メガパスカル以上の超高強度鋼の衝撃吸収エネルギーはCoやNiなどを多量に添加したマルエージング鋼などの最高級の高合金鋼でも40ジュール(J)程度であり、靭性が低かった。しかも、超高強度鋼は室温以下に冷却されると衝撃吸収エネルギーが急激に低下する延性脆性遷移挙動を示すため、構造用部材としての用途は限られていた。
  3. 延性脆性遷移は、耐力が脆性破壊応力を上回ったときに起こり、体心立方晶金属の鋼は低温で耐力が著しく上昇する性質のため、明瞭な延性脆性遷移を示す。今回、低合金鋼において、基地結晶粒の超微細化と集合組織の制御、ナノメートルサイズの炭化物粒子の分散化を組み合わせた組織制御(写真1)によって、通常材が延性脆性遷移を起こす温度域で、衝撃方向とは直角に割れが進展する層状破壊を発現させることに成功した。その結果、60℃から-60℃では温度低下に伴う鋼の耐力上昇に伴って層状破壊が促進され、靭性が著しく向上した(図1)。-20℃から-60℃では500Jの衝撃エネルギーでは完全には破断しない試験片もあった (写真2) 。なお、鋼は、室温で耐力1840 MPaの超高強度を有する。衝撃吸収エネルギーの室温での平均値は226Jであり、1800MPa級のマルエージング鋼の約6倍に相当する。
  4. 本研究成果は、1997年度から2005年度まで実施されてきた「超鉄鋼プロジェクト」で構築された超微細粒鋼の創製技術と遅れ破壊に強い1500MPa超級低合金鋼の創製技術を応用して得られたものであり、新構造材料プロジェクトの成果である。本材料創製技術は、広範囲の高強度鋼に適用可能であることから2000MPa級の超高ボルトやシャフトなどの超高強度部材の実現を可能にするキーテクノロジーと成るものである。
  5. 本研究成果は、5月23日付け米国科学誌Scienceに公開される予定である。

「プレス資料中の写真2: Vノッチシャルピー衝撃試験後の試験片の外観写真従来鋼ではVノッチシャルピー試験で割れが容易に衝撃方向に伝播して真っ二つに破断する。一方、開発鋼では衝撃方向とは直角に割れが進展する層状破壊を起こし割れが衝撃方向に進展しにくい。-20℃から-60℃の温度域では図中に矢印で示すように500Jの衝撃エネルギーでは、竹を折ったときのように試験片が完全に破断しないものもあった。」の画像

プレス資料中の写真2: Vノッチシャルピー衝撃試験後の試験片の外観写真

従来鋼ではVノッチシャルピー試験で割れが容易に衝撃方向に伝播して真っ二つに破断する。一方、開発鋼では衝撃方向とは直角に割れが進展する層状破壊を起こし割れが衝撃方向に進展しにくい。-20℃から-60℃の温度域では図中に矢印で示すように500Jの衝撃エネルギーでは、竹を折ったときのように試験片が完全に破断しないものもあった。