可視光で高活性な新規光触媒の開発に成功
室内での実用も視野に
2008.07.10
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS光触媒材料センターは、新規な光触媒材料の開発に際し、異なる複合酸化物の固溶体を合成する手法を応用し、可視光照射下で有機汚染物質の分解に高性能で安定な固溶体光触媒の開発に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 、光触媒材料センター (センター長 : 葉 金花) は、新規な光触媒材料の開発に際して、異なった複合酸化物の固溶体を合成する手法を応用し、可視光照射下で有機汚染物質の分解に高性能で安定な固溶体光触媒(Ag0.75Sr0.25)(Nb0.75Ti0.25)O3の開発に成功した。
- 持続可能な社会の構築には不可欠な大気汚染や水汚染の除去、有害化学物質の分解などの環境問題の解決が不可欠である。環境保護技術としての光触媒反応は、常温で太陽光エネルギーのみを利用して起こり、新たな環境への負荷も少なく、環境問題解決の切り札として大変注目されている。しかしながら、幅広く研究されているTiO2は、太陽光の4%程度の紫外線のみでしか光触媒反応を起こさないため、光触媒技術を有効に活用するには、太陽光のおおよそ43%を占める可視光を効果的に利用できる高い可視光活性を持った光触媒材料の開発とそれを用いたシステムの構築が必要とされている。
- 今回、理論計算を参考に、2つのペロブスカイト系酸化物SrTiO3とAgNbO3を出発物質に選んで酸化物固溶体合成法によって材料開発を行った。一方の出発物質SrTiO3は、バンドギャップが大きく酸化還元力も強いが可視光活性を示さない。他方、AgNbO3は、バンドギャップが小さく、可視光応答性を有するが、価電子帯および伝導帯のポテンシャルが十分な酸化・還元力をもたず、可視光活性は弱い。理論予測によると、これらの固溶体では、相互の欠点を補い、バンドギャップが可視光吸収に対して最適化されると同時に、価電子帯・伝導帯とも適切な酸化・還元力を有することが期待された。 (模式図1参照)
- 実際にその開発指針に基づいて合成された光触媒(Ag0.75Sr0.25)(Nb0.75Ti0.25)O3を用いた可視光照射下でのアセトアルデヒドの分解実験では、可視光応答型光触媒として実用化されている窒素ドープTiO2と比較して、比表面積で数十分の1以下であるにもかかわらず、量子効率は3倍(約1.5%、440nm可視光での測定時)以上という優れた性能を示し、室内照明程度でも環境浄化が期待される。
- 本研究成果は既に物質基本特許として出願済 (発明名称 : 可視光応答型光触媒、出願番号 : 2006-177194、出願日 : 平成18年6月27日) である。特許出願後の発展を含め、2008年7月14~16日のNIMSコンファレンス2008(エポカルつくば)及び2008年7月16日の第8回光触媒研究討論会 (東京大学先端科学技術研究センター) にて、より詳細な発表を行う予定である。