パルスレーザーを利用した高分子ナノワイヤーの作製に成功 !

2008.09.30


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS材料信頼性センターは、有機分子が分散した高分子膜に最適化した光強度のパルスレーザーを集光照射すると高分子ナノワイヤーが生成されることを発見し、超高速度カメラでその成長過程を時間分解測定することにも成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 材料信頼性センターの後藤 真宏 主幹研究員、土佐 正弘 グループリーダーらは、有機分子が分散した高分子膜にパルスレーザーの光強度を最適化して集光照射すると高分子のナノワイヤーが生成されることを発見し、さらに、超高速度カメラで高分子ナノワイヤーの成長過程を時間分解測定することにも成功した。
  2. ナノテクノロジーの発展に伴い、各種ナノワイヤーが作製され、様々な分野への応用展開が実現されつつある。中でも有機材料への注目が飛躍的に高まってきており、高分子のナノワイヤーの作製とその応用が注目を集めている。高分子ナノワイヤーは、量子サイズ効果をはじめとする物性研究や柔軟性などその特異な性質を生かして発光素子、光導波素子、光スイッチ素子などへの応用が期待されているものの、ナノワイヤー自体の作製が容易でないため、新たな高分子ナノワイヤーの簡便な生成法が待ち望まれていた。
  3. 今回、我々は、この問題を解決するため、当機構が有するレーザーテクノロジーを利用した全く別の手法で高分子ナノワイヤーが作製できないかと考え、様々な実験を行ったところ、従来のプロセスとは異なる高分子ナノワイヤーの生成法の開発に成功した。はじめに、ワイヤーの材料とする高分子のフィルムを準備し、その中にレーザ光を吸収する分子 (例えば、クマリン、ペリレンなどの有機分子) を分散させておき、そのフィルムにパルスレーザー光 (例、波長440nm、900psパルス幅) 、1パルスを、対物レンズを用いて集光照射すると、分子が光励起されると共に、そのエネルギーによって極めて細い (直径が5~200nm程度、長さ10~2000μm程度、条件により変化可能) 高分子ナノワイヤーが生成されることを発見した。 同時に、この生成プロセスを解明するために、超高速度カメラならびにゲートCCDカメラによる測定を行ったところ、生成時間は、約1μsであり、これまでに試みた高分子全て (PMMA,PEMA,PBMA,Polystylene) のナノワイヤー生成が可能であった。また、分散させる分子種を変更してもワイヤー作製は可能であるが、いずれのケースでも高分子ナノワイヤーの生成には、レーザー光強度の最適化が必要であることが確認された。
  4. 今回、開発された新たな高分子ナノワイヤー作製手法を用いることにより、サイズや長さの異なる高分子ナノワイヤーを大気中のドライプロセスで非常に簡単に生成でき、多品種の高分子材料を利用できることを考えると、サイズ効果の関わる物性研究や各種光学・電子デバイスや超高感度ナノセンサーなどへの広範囲の展開が期待される。
  5. 高分子ナノワイヤーの生成過程の超高速度カメラならびにゲートCCDカメラによる 観察実験において、株式会社島津製作所ならびに浜松ホトニクスにご支援をいただいた。

「プレス資料中の図2: ゲートCCDカメラを用いた高分子ナノワイヤー成長プロセスの時間分解測定 (左) と走査型電子顕微鏡イメージ (右)  : 約100nm径、全長約10μm」の画像

プレス資料中の図2: ゲートCCDカメラを用いた高分子ナノワイヤー成長プロセスの時間分解測定 (左) と走査型電子顕微鏡イメージ (右) : 約100nm径、全長約10μm