鉄系超伝導に新物質、毒性の低い元素で発見

2008.11.05


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMSとJSTは、最近、高温超伝導体の新しい鉱脈と期待されている鉄系超伝導に、毒性の低い元素のみで構成された新超伝導物質を発見した。

概要

  1. 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄、以下NIMS) と独立行政法人 科学技術振興機構 (理事長 : 北澤 宏一、以下JST) は、最近、高温超伝導体の新しい鉱脈と期待されている鉄系超伝導に、毒性の低い元素のみで構成された新超伝導物質を発見した。この成果は、NIMS超伝導材料センター (センター長 : 熊倉 浩明) ナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダーらの研究によって得られた。
  2. 2008年初頭、東京工業大学の細野教授のグループによって、鉄系超伝導体が発見された。この発見を契機に、類似化合物に超伝導体が次々と見出され、この鉄系超伝導は、新しい高温超伝導体の鉱脈と期待されている。
    従来の高温超伝導において超伝導の起源となる結晶構造は、銅と酸素が作る二次元構造である。この鉄系超伝導では、鉄とヒ素が作る二次元構造が超伝導の起源と考えられている。そのため、これまで発見された鉄系超伝導体のほとんどが、鉄ヒ素、鉄リン、鉄セレンなどの二次元構造を持っている。しかし、ヒ素やリン、セレンは、毒性の高い元素であるため、鉄系超伝導体を応用していくためには、毒性の低い元素で構成された新超伝導体を見出すことが望まれていた。
  3. 当研究グループでは、鉄系超伝導体と類似構造を持つが、超伝導を示さない鉄テルル化合物に着目し、そこへ硫黄を少量ドープすることで超伝導を発現させる事に成功した。この鉄テルル系超伝導体FeTe1-xSxは、ヒ素やリン、セレン等の毒性の高い元素を含まないため、応用に適しているものと考えられ、今後、超伝導線材の開発などに取り組んでいく予定である。
  4. 本発見は、ゼロ抵抗状態で電流を流すことができる超伝導線材や超伝導デバイスへの応用が考えられる。毒性の低い元素で構成されているため、研究開発が容易になり、今後、より多くの研究者が研究開発に参画することなどが見込まれ、更なる新超伝導体開発への足がかりとなる事が期待される。
  5. 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業 研究領域「新規材料による高温超伝導基盤技術」 (研究総括 : 福山 秀敏・東京理科大学 理学部 教授) の研究課題「鉄セレン系超伝導体の機構解明と新物質探索」 (研究代表者 : 高野 義彦) の一環として得られたもので、11月7日から東京大学にて開催される国際会議 (ISAQM2008) にて発表の予定である。

「プレス資料中の図1 : 鉄テルル化合物FeTe1-xSxの結晶構造の略図 FeとTe,Sが作る二次元構造が積層した結晶構造である。」の画像

プレス資料中の図1 : 鉄テルル化合物FeTe1-xSxの結晶構造の略図 FeとTe,Sが作る二次元構造が積層した結晶構造である。



注釈 :
化学物質の毒性については急性症状や体内蓄積による慢性症状など多くの分類があり、比較については多角的な視点が必要です。テルルはセレンやヒ素と比較し、ばく露による全身毒性は弱いものの、経口毒性はむしろ強いとのデータがあります。本プレスリリースでは毒物及び劇物取締法における指定や、物質の用途から考えられる人体への侵入経路を考慮し、テルルの毒性をヒ素、セレン等に比べ「低い」と表現しております。