超硬コーティングの硬さと平滑性の大幅向上を達成
産業用耐摩耗コーティングに技術革新
2009.11.30
独立行政法人物質・材料研究機構
株式会社フジミインコーポレーテッド
NIMSハイブリッド材料センターは株式会社フジミインコーポレーテッドと共同で、それぞれが開発したコーティングプロセスと原料粉末を組み合わせることによって、従来よりも大幅に表面の平滑性と硬度に優れた耐摩耗用途のWC-Co皮膜の作製に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) ハイブリッド材料センターは株式会社フジミインコーポレーテッド(代表取締役社長 : 関 敬史)と共同で、それぞれが開発したコーティングプロセスと原料粉末を組み合わせることによって、従来よりも大幅に表面の平滑性と硬度に優れた耐摩耗用途のWC-Co皮膜の作製に成功した。
- タングステン炭化物 (WC) とコバルト (Co) からなる焼結体は超硬合金と呼ばれ、優れた硬度・靭性を有していることから機械加工用の工具として広く用いられている。また、WC-Co粉末を原料として溶射して得られる皮膜は、耐摩耗皮膜として製鉄、製紙プラントのロールや建設機械等に広く利用されている。しかし、従来の溶射法は、コバルトを溶融させるため、タングステン炭化物との反応により皮膜中に脆弱な化合物が生成するという問題があった。さらに、原料粉末を小さくすれば皮膜の特性向上に有効であることは分かっていたが、溶射装置内部で溶融した粒子が堆積して施工が続けられなくなる現象 (スピッティング) が起きるため、長時間施工する際の技術的な障壁となっていた。
- 物質・材料研究機構は、溶射に用いるガスの温度を燃焼炎に適量の窒素を混合することによって精密に制御するプロセス (ウォームスプレー) を開発してきた。今回、このプロセスをWC-Co粉末に適用した結果、原料粉中のコバルトの溶融を抑制しつつ、粉末を500 m/s以上の高速度に加速して溶射が可能となり、上記課題の解決の見通しを得た。
- フジミインコーポレーテッド社は、ウォームスプレーに最適化されたナノ~サブミクロンの大きさのWC粒子を用いた顆粒状の粉末 (顆粒径 : 5~20μm) を開発した。原理的に微細なWC粒子は皮膜の硬度向上に、小さい顆粒は表面粗さの低減に有効だが、従来の溶射法では脆弱な化合物の形成とスピッティング頻度の増加という問題があった。今回、ウォームスプレー法との組み合わせで脆弱化合物の抑制と安定的な成膜が達せられた。
- 開発された皮膜は、ビッカース硬度が1600以上、成膜後の無処理状態で表面粗さRa 1.6μm以下を示し、従来皮膜と比較して大幅な特性向上を達成した。高硬度による優れた耐摩耗性や皮膜施工後の研磨仕上げ時間の大幅な短縮によるコスト低減が期待される。
- 本研究成果は2009年12月3日より豊橋で開催される日本溶射協会秋季講演大会にて発表を予定している。
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