超磁歪効果の起源を発見

超磁歪と大きな圧電効果は類似原理に基づく

2010.05.11


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSセンサ材料センターおよび共用ビームステーションは、強磁性材料における、磁性を伴う構造的な「モルフォトロピック相境界」を発見し、境界組成での鉄の100倍の巨大な磁歪効果 (超磁歪) を見出した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)センサ材料センターの任 暁兵 グループリーダー、楊 森 特別研究員並びに共用ビームステーションの小林ステーション長らは、強磁性材料における、磁性を伴う構造的な「モルフォトロピック相境界」を発見し、境界組成での鉄の100倍の巨大な磁歪効果(超磁歪)を見出した。
    これらの発見により、30年に亘って不明であった超磁歪効果のメカニズムが明らかになり、磁性分野での「結晶構造は磁性状態に依存しない」という常識が覆され、超磁歪効果と強誘電材料の高い圧電効果の起源を同一に理解することが可能となった。
  2. 鉄を始め、すべての強磁性材料は、磁場を印加すると伸縮するという磁歪効果を持っている。この効果が十分大きければ、多くのセンサやアクチュエータへの応用が期待される。しかし、殆どの強磁性材料の磁歪効果は僅か百万分の1から十万分の1程度の微弱なレベルであり、実用に供するのは難しい。
    一方、30年前に発見された磁歪材料Terfenol-Dにおいて、通常の磁歪より100倍大きな超磁歪効果が発見されたが、その原理は良く分かっていなかった。そのため、超磁歪効果を得る指針がなく、超磁歪材料の探索は経験頼りの状況であった。
  3. 任グループリーダーらは、大型放射光施設 (SPring-8) の高角度分解能粉末X線回折装置を用いて、強磁性体の磁気的異相境界は同時に構造的異相境界、つまり「モルフォトロピック相境界」であることを世界で初めて発見した。この発見により磁性分野の常識「結晶構造は磁性状態に依存しない」を覆すとともに「強磁性モルフォトロピック相境界」が、強誘電体に見られる「強誘電モルフォトロピック相境界」と同一に理解できるようになった。
    また、稀土類強磁性合金TbCo2-DyCo2の相境界組成において鉄の磁歪効果より100倍大きな超磁歪効果を発見。強誘電体の相境界組成における最大圧電効果と本質的に同じ現象であることを示した。この研究により、超磁歪効果の起源は「モルフォトロピック相境界において磁気・格子の不安定性」と解釈され、強誘電・圧電材料PZTなどの大圧電効果と同様に理解することができた。
  4. 今回の研究成果によって、今後この新しい知見を利用し、新規超磁歪材料(特に低コストの超磁歪材料)の探索に指針を与え、超磁歪材料の開発及び実用化に貢献することが期待される。
  5. 本研究の成果は近日、米国物理学会誌Physical Review Lettersに発表される予定である。

「プレス資料中の図1強磁性材料TbCo2-DyCo2の状態図(a)と強誘電材料PZTの状態図(b)の類似性及び共通特徴を持つモルフォトロピック相境界(矢印)。強磁性のモルフォトロピック相境界は磁気・結晶構造の異相境界であり、強誘電体のモルフォトロピック相境界は電気分極・結晶構造の異相境界である。」の画像

プレス資料中の図1
強磁性材料TbCo2-DyCo2の状態図(a)と強誘電材料PZTの状態図(b)の類似性及び共通特徴を持つモルフォトロピック相境界(矢印)。強磁性のモルフォトロピック相境界は磁気・結晶構造の異相境界であり、強誘電体のモルフォトロピック相境界は電気分極・結晶構造の異相境界である。