世界で初めて「渦状スピン構造体 : スキルミオン結晶」の直接観察に成功

ハードディスクの読み取り感度の画期的向上に期待

2010.06.17


独立行政法人科学技術振興機構
独立行政法人物質・材料研究機構
東京大学
独立行政法人理化学研究所

JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学とJST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」の于 秀珍 (ウ・シュウチン)  研究員らは、世界で初めて新スピン構造体 (スキルミオン結晶) の直接観察に成功しました。

概要

JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の十倉 好紀 教授とJST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」の于 秀珍 (ウ・シュウチン)  研究員らは、世界で初めて新スピン構造体 (スキルミオン結晶注1) ) の直接観察に成功しました。このスピン構造体は、多数のスピンが渦状に配列したスキルミオン (図1右) が格子状に規則正しく並んだスキルミオン結晶 (図1左) のことです。スキルミオン結晶は、スピンがらせん構造を持つことから電気と磁気との関係に大きな物理的相互作用があると考えられ、その特徴的な構造から結晶中では巨大な異常ホール効果の発生 (実用化されている半導体ホール素子の数十倍から数百倍) が予見されています。ハードディスクなどに使う高感度の磁気センサー素子への応用をはじめ、これまでには存在しなかった新しい物性を持った材料として今後の応用展開が期待されています。しかしスキルミオン結晶はこれまで、極低温の非常に限定された条件下で間接的に存在が予想されるだけで、その発生機構もよく分かっていませんでした。

本研究グループは今回、らせんスピン構造を持つFe0.5Co0.5Siに着目し、ローレンツ電子顕微鏡注2) を用いることでスキルミオンの直接観察に初めて成功しました。また、このスキルミオン結晶はわずか数百ガウスの弱磁場下、広い温度範囲 (5Kから30K) に存在し、比較的安定した状態であることも分かりました。これらのスキルミオンの観察結果は、理論的な検討結果ともよく一致しています。今回の成果によりスキルミオンの発生機構のモデルが確証されたことで、今後さまざまなスキルミオン結晶の作成が可能となります。新機能物質の作成に向け、新しい道筋が見えてきました。

本研究は、物質・材料研究機構、東京大学、理化学研究所と共同で行われ、本研究成果は、2010年6月17日 (英国時間) 発行の英国科学雑誌「Nature」に掲載されます。

「プレス資料中の図4:ローレンツ電子顕微鏡法によって得られたら2次元スキルミオン結晶 (左) とモンテカルロ法シミュレーションで得られた2次元スキルミオン結晶図 (右)」の画像

プレス資料中の図4:ローレンツ電子顕微鏡法によって得られたら2次元スキルミオン結晶 (左) とモンテカルロ法シミュレーションで得られた2次元スキルミオン結晶図 (右)



本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました


戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究
研究プロジェクト : 「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」
研究総括 : 十倉 好紀 (東京大学 大学院工学系研究科 教授)
研究期間 : 平成18~23年度
JSTはこのプロジェクトで、電気と磁気との強い相関を持つマルチフェロイック物質の創製と、その物性を説明する学理の構築を総合的に行うことで、材料の新たな設計指針を見いだしつつ、ものづくり手法の高度化と合わせて、新規材料群の開拓を行っています。