熱アシスト磁気記録可能なFePtナノ粒子媒体構造を実現

2010.08.02


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS磁性材料センターは、鉄-白金規則合金のナノ粒子を均一なサイズで分散させた高保磁力(37kOe)垂直磁化膜の作製に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 磁性材料センター宝野 和博センター長、高橋 有紀子主幹研究員、Zhang Li研究員は鉄-白金規則合金のナノ粒子を均一なサイズで分散させた高保磁力 (37kOe) 垂直磁化膜の作製に成功した。このナノ粒子分散垂直磁化膜を用いて、日立グローバルストレージテクノロジーズ (日立GST) サンホセ研究センターのBarry C. Stipe 博士らは熱アシスト磁気記録ヘッドによる記録試験を行い、現行のハードディスクドライブ (HDD) の垂直磁気記録方式の記録密度の最高値と同等の450Gbit/平方インチの熱アシスト磁気記録が達成可能であることを示した。このような高保磁力鉄-白金系ナノ粒子分散垂直磁化膜の開発により、次世代の超高密度磁気記録方式として提案されている熱アシスト方式に適合する媒体の実用化への道筋が示された。
  2. 現在市販されているHDDの記録密度の最高値は約550Gbit/平方インチ程度である。記録密度を高めるとHDDの小型化や消費電力の低減に大きく貢献することから、現行の垂直磁気記録方式に様々な改良が行われているものの、現行方式では1Tbit/平方インチ程度が限界と考えられている。この記録密度を4Tbit/平方インチにまで飛躍的に高めるためには新しい磁気記録方式への移行が必要で、そのための有望な記録方式の一つが熱アシスト磁気記録である。熱アシスト磁気記録のヘッドは日立GSTで開発が進んでいたが、これまで数ナノメータの粒子サイズで、サイズ分散が小さく、それらの結晶方位を配向した熱アシスト方式に適する記録媒体の開発が遅れていた。
  3. 熱アシスト方式の媒体としては、まず数ナノメータのサイズの磁石粒子を均一に分散させ、磁化しやすい結晶方位を膜に垂直に配列させる技術が必要とされる。材料としては記録情報を長期間保持するため、ナノサイズの粒子でも磁化が熱で反転しない、結晶磁気異方性の高い強磁性材料を使う必要がある。そのような材料として鉄と白金の合金で原子が規則的に配列した規則合金が最適と考えられていた。しかし、鉄白金系規則合金を使って熱アシスト媒体に適した粒子分散性の良いナノ粒子分散垂直磁化膜の作製が不可能であった。
  4. 今回の研究によって、熱アシスト磁気記録に適したナノ構造を鉄白金系合金を用いて作製することに成功し、その媒体を使って熱アシスト磁気記録として最高の450Gbit/平方インチの記録密度が実証された。このことから、今回実験室レベルで作製されたようなナノ粒子構造を持つ鉄白金系媒体の工業的な製造技術を確立すれば、熱アシスト磁気記録の実用化に大きく近づくと期待される。
  5. 本研究の成果は8月16-18日にサンディエゴで開催される第21回磁気記録国際会議 (TMRC2010) にて発表される。本研究における日立GSTによる熱アシスト磁気記録はNEDO超高密度ナノビット磁気記録技術の開発 (グリーンITプロジェクト) の一環として行われた。

「プレス資料中の図1 (左) FePtAgナノ粒子分散垂直磁化膜の電子顕微鏡像と (右) 静的熱アシストヘッドによる記録ビットのパターン」の画像

プレス資料中の図1 (左)
FePtAgナノ粒子分散垂直磁化膜の電子顕微鏡像と (右) 静的熱アシストヘッドによる記録ビットのパターン