お酒が誘発する鉄系超伝導

2010.07.27


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

NIMS超伝導材料センターの高野 義彦グループリーダーらは、鉄系超伝導関連物質であるFe(Te,S)系に超伝導を発現させる際、赤ワインやビールなどのお酒が有効であることを発見した。

概要

  1. 独立行政法人 物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝、以下NIMS) は、鉄系超伝導1)関連物質であるFe(Te,S)系に超伝導を発現させる際、赤ワインやビールなどのお酒が有効であることを発見した。この成果は、NIMS超伝導材料センター (センター長 : 熊倉 浩明) ナノフロンティア材料グループの高野 義彦グループリーダーらの研究によって得られた。
  2. 2008 年に、東京工業大学の神原 陽一博士 (現在、慶應義塾大学理工学部専任講師) らによって、鉄系超伝導体LaFeAs(O,F)が発見された。この発見を契機に、FeAs、FeP、FeSeをベースにした類似化合物に次々と超伝導が見出され、鉄系超伝導は、第二の高温超伝導体の鉱脈として期待されている。
    一方、FeTeは、FeSeなどの鉄系超伝導体と類似構造を持つにもかかわらず、反強磁性磁気秩序が邪魔をして超伝導を示さない。そこで、当研究グループではこれまでに、SをドープしたFeTe1-xSxを固相反応法で合成し、反強磁性磁気秩序は消失するものの超伝導は出現しない、いわば、磁性体と超伝導体の間に位置する物質を得ることに成功している。加えてこの物質において、長期間空気中に放置すると超伝導が出現するなどの大変興味深い現象を観測しており(PHYSICAL REVIEW B 81, 214510 (2010))、何が超伝導を発現させるのかを探る上で大変重要な物質である。
  3. 今回、本研究グループでは、超伝導と非超伝導の間に位置する物質としてFeTe1-xSxに再度着目し、固相反応法により試料を作製した。得られた試料は超伝導を示さないが、酒に浸し70℃程度に加温すると、翌日には超伝導体(Tc~8K)になることが分かった。赤ワイン、白ワイン、ビール、日本酒、焼酎、ウイスキーについて比較実験を行った結果、全ての酒で超伝導が出現し、赤ワインが最も優れていることが分かった。
  4. 本発見は、この鉄テルル系超伝導体FeTe1-xSxに超伝導を発現させるために、何が必要であるかを検討する上で大変重要な知見を与えてくれるものと考えている。現在、お酒の中のどの成分が作用して超伝導が発現しているか研究中であるが、今後、原因物質を明らかにすることにより、更なる新超伝導体開発への足がかりとなるものと期待される。
  5. 本研究成果は、科学技術振興機構 (以下JST) 戦略的創造研究推進事業 研究領域「新
    規材料による高温超伝導基盤技術」 (研究総括 : 福山 秀敏・東京理科大学副学長) の
    研究課題「FeSe系超伝導体の機構解明と新物質探索」 (研究代表者 : 高野 義彦) の一
    環として得られたもので、2010年8月1日から米国ワシントンDCにて開催される国際
    会議ASC2010等にて発表の予定である。

「プレス資料中の図3実験に用いた酒 (ビール、赤ワイン、白ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー) と試料の写真」の画像

プレス資料中の図3
実験に用いた酒 (ビール、赤ワイン、白ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー) と試料の写真