ナノの積木細工で世界最小の強誘電体
究極のメモリ実現に向けた新しい道
2010.10.26
独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構
NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の研究グループは、分子レベルの薄さのナノ物質 (酸化物ナノシート) を使ったナノの積木細工で、世界最小の強誘電体の開発に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野正和) の長田 実 MANA研究者、佐々木高義 主任研究者らの研究グループは、分子レベルの薄さのナノ物質 (酸化物ナノシート) 1) を使ったナノの積木細工で、世界最小の強誘電体の開発に成功した。
- 強誘電体は、絶縁体の一種で、外部より与える電圧の向きに応じて電気分極2) のプラス、マイナスが反転し、しかも電圧がゼロとなっても分極が保たれる性質を持つ物質である。この性質を利用した強誘電体メモリ3) は、高速書き換えが可能、電源を切っても記憶内容が消えない、消費電力が少ないなどの優れた特徴があり、ユビキタス社会の基盤となる「究極のメモリ」として期待されている。強誘電体メモリの高機能化には、強誘電体の薄膜化が必要不可欠であるが、従来の材料では、ナノレベルまで薄膜化すると分極特性が低下するという問題があり、これがメモリ開発の大きな障害となっていた。
- 今回、研究グループは、ナノレベルで機能する強誘電体を開発する新しい手法として、子供のブロック遊びのように、ナノ物質で積木細工をする人工超格子4) 技術に注目した。2種類の酸化物ナノシート (Ca2Nb3O10、LaNb2O7) を合成し、ナノの積木細工で、2種類を交互に積み重ねた人工超格子を作製した。さらに、強誘電性実現のためのひと工夫として、プラスに帯電した分子をのりにして、ナノシート同士をつなぎ合わせ、接合界面付近のイオンが変位し、分極しやすくなるような環境を整えた。そして作製した人工超格子が、実際に強誘電体になることを発見した。この人工超格子は、世界最小レベルの膜厚10ナノメートルの極薄膜ながら、室温で優れた強誘電性を示すことを確認した。
- 今回の成果は、強誘電体ナノ材料の開発に向けて新たな設計指針を与えると同時に、強誘電体ナノ薄膜が持つ低電圧動作という特徴を利用した低消費電力型メモリやICカードへの応用展開が期待される。
- 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域 (研究総括 : 堀池靖浩) における研究課題「無機ナノシートを用いた次世代エレクトロニクス用ナノ材料/製造プロセスの開発」 (研究代表者 : 佐々木高義) の一環として行われたもので、ACS NANO誌 (米国化学会発行) のオンライン速報版に近日中に掲載される予定である。