ナノギャップ光アンテナにより高効率化した有機超薄膜による光電変換

2010.11.22


独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人 北海道大学

NIMS国際ナノアーキテクトニクス拠点と北海道大学は、分子エレクトロニクスに組み込む光電変換素子として期待される有機超薄膜型の光感応性分子素子において、光の利用効率を飛躍的に高める方法を共同で開発した。

概要


  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス拠点 (拠点長 : 青野 正和) の魚崎 浩平コーディネーターと北海道大学 (総長 : 佐伯 浩) 大学院理学研究院の池田 勝佳准教授は共同で、分子エレクトロニクス1)での利用が期待される有機超薄膜型2)の 光電変換分子素子において、光の利用効率を飛躍的に高める方法を開発した。本研究では、光吸収・電子伝達といった必要な機能をもつ部品を連結した分子から 成る単分子超薄膜を、原子レベルで表面制御した平滑な金電極面と金ナノ粒子で挟み込むことによって、ナノギャップ型の光アンテナを導入することに成功し た。その結果、光アンテナ1つあたりで光誘起電子移動反応3)が約50 倍の効率に高まることを実証した。
  2. 単分子超薄膜を利用した機能設計では、分子レベルでの精密な構造制御と機能発現部位の自在連結によって、高度な機能性を実現できる可能性 を持っている。しかし、光感応性の有機超薄膜を設計する場合、単分子層での光吸収率を高めるのには限界があり、システム全体としての高効率化には問題があ る。しかし、多層膜化して光吸収率を高めると、分子レベルでの精密な構造制御が困難となる。
  3. ナノ構造を持つ金や銀などの金属構造体においては、その自由電子が光の電場と結合して集団運動する、プラズモン共鳴4)を 示すことが知られている。光がプラズモンと結合することで金属構造体近傍に局在電場を形成するため、色素分子と入射光との相互作用効率が向上すると考えら れている。しかし、この現象を利用して光アンテナを実現するには様々な問題があり、特に光機能性超薄膜へ適用するには、分子機能の発現に必要な原子レベル での金属表面制御とプラズモン共鳴を示す金属ナノ構造体の構築を両立することが困難であった。
  4. 本研究では、電極表面に高配向な機能性分子超薄膜を形成した後に、金ナノ粒子を分子層上に吸着させることで、電極とナノ粒子間で挟んだナ ノギャップ構造を構築するという従来とは逆の工程を経ることで、界面構造制御とアンテナ特性制御の両立を達成した。つまり、分子層の機能を最大限に活用し つつ、光アンテナの特性も厳密に設計・制御出来るようになった。本手法は、光アンテナを後付け出来る手法のため、様々な電極表面に応用できると期待され る。
  5. 本研究結果は化学系学術誌であるAngewandte Chemieに受理されている。なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「光 - 分子強結合反応場の創成」の一環として行われた。


「プレス資料中の図1 : 光機能性有機超薄膜で修飾した電極で適用可能な光ナノアンテナ構造 (左) と光アンテナの有無による光電流応答の励起波長依存性 (右上) およびアンテナ共鳴特性と光電流増強度の波長依存性 (右下) 。670 nm付近での平均増強度20倍は、アンテナ1つにつき50倍の増強度に相当する。」の画像

プレス資料中の図1 : 光機能性有機超薄膜で修飾した電極で適用可能な光ナノアンテナ構造 (左) と光アンテナの有無による光電流応答の励起波長依存性 (右上) およびアンテナ共鳴特性と光電流増強度の波長依存性 (右下) 。670 nm付近での平均増強度20倍は、アンテナ1つにつき50倍の増強度に相当する。