分子輸送および高分子分離のためのモザイクナノフィルター作製
2010.12.10
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMSの環境・エネルギー材料萌芽ラボは、緻密なモザイクケージ・シリカナノチューブを陽極アルミナ膜 (AAM) の細孔 (チャネル) 内部に作製することに成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 環境・エネルギー材料萌芽ラボ (ラボ長 : 原田 幸明) のシェリフ・エルサフティ (Sherif El-Safty) らは、緻密なモザイクケージ・シリカナノチューブを陽極アルミナ膜 (AAM) 1)の細孔 (チャネル) 内部に作製することに成功した。この材料は、高濃度の高分子をわずか数秒のうちにサイズ分けすることができるナノフィルターとして応用できるものである。
- 今日、生物製剤や薬剤の分野において、タンパク質を均質なグループや均一なサイズに分離することは極めて重要である。そのニーズに応えるために、製造の容易さや迅速性、量産性及び低コスト性をもつ分離技術が求められている。また、このような細孔膜 (メンブレン) フィルターにおいては、ナノチャネル膜内に充填されるナノチューブ間にできる空隙は、フィルターのサイズ分離機能を低下させるだけでなく、ナノチューブの耐久性も制限してしまうため、空隙のない強固なフィルター膜の設計が課題であった。
- 今回のモザイクナノフィルター膜では、その特性が、シリカナノチューブ内にある緻密に作られた3Dメソケージ構造2)に基づいてコントロールされる。今回の設計では、陽極アルミナ膜の細孔チャネルに多機能表面被覆3)を施すことにより、陽極アルミナ膜内に生成したナノチューブの間に空隙がない極めて強固な「真のナノフィルター」膜が作製できた。この方法は、ナノフィルター応用に有用な、三次元的な連結メソケージ構造をもち、両端が開口し、膜面に垂直に配列した、安定な細孔組織を膜内に得るのに理想的なものである。
- 今回の開発における重要なポイントは、このナノフィルターシステムが、タンパク質を含む様々なサイズの高分子を、広い濃度範囲において、濾過プロセスにおけるタンパク質の阻害効果にもかかわらず、タンパク質の種類によっては通常12時間以上かかるところをわずか数秒という速さで効率的に分離できるという点である。
- 従来の技術に比べ、今回私たちが作製したナノフィルターの固有特性 (フィルターの寿命、長期安定性、分離効率、再利用性など) は、他のさまざまな分子のフィルタリングや多種分子の輸送膜をも可能にするナノフィルターの開発の鍵となるものである。
- 今回の研究成果は、このモザイクナノフィルターが、現在使われている高分子の分析方法に代わる、時間的にもコスト的にも効率の高い代替ツールになりうることを示している。本成果は、さまざまな電子機器やセンサーなど、ナノテクノロジーにおける機器の設計において新たな識見を与えるものである。