CaF2絶縁層の開発によるInGaN紫外線センサの高感度化

2011.03.04


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSセンサ材料センターは、高い感度と早い応答をともに満たす紫外線の95%を占める領域A) の紫外線 (UVA 波長 : 320 - 400nm)検出器の開発に成功した

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) センサ材料センター (センター長 : 羽田 肇) の角谷 正友 主幹研究員およびLiwen Sang 研究員らはIII-V族窒化物薄膜と金属ショットキー電極との間に絶縁体であるフッ化カルシウム (CaF2) を挿入することで、高い感度と早い応答をともに満たす紫外線の95%を占める領域A) の紫外線 (UVA 波長 : 320 - 400nm)検出器を開発することに成功した。
  2. III-V族窒化物薄膜はIII族 (Al、Ga、In) の混晶比を制御することで検出する紫外線の波長を選択できる特徴がある。UVA検出に適当なInGaNの窒化物薄膜は高い転位密度や残留キャリア濃度のためにリーク電流が高かったり、光照射後も光電流が流れ続けたりする問題がある。そのために紫外線と可視光との高い感度差と速い応答を同時に満たす紫外線センサーを開発することが困難であった。これまでUVAの検出器としてSiを用いたものではバンドギャップの点から感度が高くない問題があった。
  3. 本研究開発では、有機金属化学堆積法で成長したInGaN薄膜表面にショットキー電極 (Ni (20nm) /Au (20nm) ) をくし型状に形成した金属—半導体 - 金属 (MSM)構造のUVA検出デバイスを形成した。電極/InGaNとの間にスパッタリングで作製したCaF2を5nm挿入することで、低リーク電流 (<1.4x10-7A@-5V) と高い光感度を実現することができた。絶縁層としてSiO2、Si3N4、p-GaNなどのワイドギャップ材料が試されてきたが、CaF2のような高いレベルの絶縁性を示すことがなかった。
  4. CaF2を挿入したInGaN薄膜のMSM型UVA検出器は6桁の紫外線と可視光との検出感度差、バイアス2Vで338nmの紫外線に対して10.4 A/Wの感度 (ゲイン40) 、ミリ秒の応答速度の特性を示すこれまでにない高性能な検出器で、約6倍の感度と10倍の検出限界の向上を実現した。CaF2の役割を明らかにしていく必要があるが、応答速度が速いことから界面準位が低減されていることが示唆される。
  5. ガラス窓を容易に透過する上に長時間かけてシミの原因となるUVAの環境モニターなどに利用できる。InGaN, CaF2ともにワイドバンドギャップ材料であるので高温環境下での利用も期待される。
  6. 本研究成果は学術論文誌「Applied Physics Letters」に3月7日に掲載される予定である。

「プレス資料中の図1:開発したCaF2挿入したMSM型InGaN - UVA検出器のデバイス構造」の画像

プレス資料中の図1:開発したCaF2挿入したMSM型InGaN - UVA検出器のデバイス構造