世界で初めてカーボンナノチューブの局所的な温度分布を直接観察
2011.08.10
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS 国際ナノアーキテクトニクス拠点と、アベイロ大学およびジャワハルラール・ネルー先端科学研究所の研究グループは、走査トンネル顕微鏡プローブを持つ透過電子顕微鏡を用いて、1本のカーボンナノチューブに電流を流し、接合部における局所的な温度分布を動的に観察することに世界で初めて成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) の国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の デミトリ・ゴルバーグ 主任研究者とペドロ・コスタ (現在アベイロ大学、ポルトガル) 及びウジャール・ガウタム (現在ジャワハルラール・ネルー先端科学研究所JNCASR、インド) らの研究グループは、走査トンネル顕微鏡プローブを持つ透過電子顕微鏡 (TEM) を用いて、1本のカーボンナノチューブに電流を流しナノチューブ接合部における局所的な温度分布を動的に観察することに世界で初めて成功した。
- カーボンナノチューブ (CNT) は、その小ささがゆえに電気的応答性等に優れており、次世代電子デバイスを構成する材料として最も有力視されている。デバイスを構成する際、その接合部は長時間駆動においても構造を保ち、かつ良好な接合を維持しなければならず、高い熱的かつ構造的安定性が求められる。CNTを用いたナノデバイスの接合部においても同様に高い安定性が必要となる。デバイスの大幅な性能劣化には接合部での局所的な温度上昇が原因となる場合があり、接合部での動的な温度の解明が必要であるが、これまで、CNTの接合部に電流を流す際に、どのような温度分布を持つのか、また、構造がどのように変化するのか、について全く知られていなかった。
- 本研究では、CNT接合部に電流を流したときに起きる現象を、動的に観察することに成功した。TEM中で昇華性の硫化物 (Zn0.92Ga0.08S、昇華温度Tsub=928 K=655℃) で満たしたナノチューブ (直径130nm、長さ3.1μm、チューブの壁厚5nm) の両端を電極に接合し電流を流した。まず、電極との接触が悪いチューブ先端部が熱を持ち、ホットスポットと呼ばれる温度の高い領域が形成される。その後、ナノチューブは電極と均一に接合する。さらに電流を流し続けると、ナノチューブ自身が均一に加熱されてゆき、ホットスポットの位置はナノチューブのほぼ中央部に移動した。ホットスポットの領域ではチューブ内の硫化物が昇華するため、消失して空洞ができる。加熱時において、電極は室温に保たれているので、ホットスポットの先端位置と電極間との距離を目印にして、ナノチューブに沿った方向および断面方向の温度勾配を継続して観察することができた。観察は接合部が電気的に破壊されるまで終始行うことができる。その結果、チューブ中心での温度は928 K (655℃) 、チューブ壁で1052 K (779℃) であることが世界で初めて確認された。
- この方法を用いると、ナノレベルの分解能かつミリ秒の高速でCNT接合部における温度変化を観察することが出来るとともに、本手法を活用した局所的な温度分布の計測や画像化は、ナノデバイスの接合部評価法としての応用が期待される。
- 本研究の成果は、日本時間2011年8月10日0 : 00 (現地時間9日16 : 00) に英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版で公開される。