超高密度HDD用極薄再生ヘッドのための反強磁性交換結合3層磁気抵抗素子の開発
2011.10.31
独立行政法人物質・材料研究機構
NIMS 磁性材料ユニットは中谷友也日本学術振興会特別研究員と共同で、次世代の超高密度ハードディスクドライブ (HDD) のための極薄再生ヘッドに適すると考えられる反強磁性交換結合3層磁気抵抗素子の実証に成功した。
概要
- 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 潮田資勝) 磁性材料ユニット 宝野 和博ユニット長のグループは中谷友也日本学術振興会特別研究員と共同で、次世代の超高密度ハードディスクドライブ (HDD) のための極薄再生ヘッドに適すると考えられる反強磁性交換結合3層磁気抵抗素子の実証に成功した。これは、コバルト基ホイスラー合金薄膜の反強磁性的な層間交換結合を用いた素子で、従来のスピンバルブ素子に比べ半分の厚さの10 nmという極薄で高い磁気抵抗比を実現できるので、次世代の超高密度HDD用の超高分解能高感度再生ヘッドとしての応用が期待される。
- HDDの再生ヘッドにはトンネル磁気抵抗 (TMR) を利用したスピンバルブ素子が利用されている。絶縁層を挟んだ二つの強磁性体薄膜の相対的な磁化の向きによってトンネル電流の流れが大きく変わるトンネル磁気抵抗素子を利用して、磁気記録媒体上のナノスケールの磁石から磁気情報を読み取っている。今後2 テラビット/平方インチを超える記録密度を達成しようとすると、磁気情報のビットサイズが10-20 ナノメーター (nm) (ナノメーターは10億分の1メーター) にまで微細化されるので、再生ヘッドには、 (1) 大きな磁気抵抗変化量、 (2) 低い素子抵抗値、 (3) 薄い素子膜厚、の向上が要求される。現在使用されているトンネル磁気抵抗 (TMR) 素子では、高い磁気抵抗比が得られるものの、二つの磁性層を分けるスペーサに絶縁層を用いることから素子抵抗を低くすることが難しく、次世代の超高密度HDD用再生ヘッドとしては、スペーサ層も金属の電流面垂直型巨大磁気抵抗 (CPP-GMR) の応用が期待されている。ビット分解能は再生ヘッド薄膜の総膜厚によって決まるが、現行のスピンバルブ膜では磁気抵抗素子にTMR、CPP-GMRのいずれを用いた場合でも、総膜厚を20 nm以下に低減することは難しく、新たな再生ヘッド素子構造の開発が課題となっている。
- 強磁性層間にはたらく反強磁性交換結合を利用した強磁性体/非磁性体/強磁性体の3層膜を用いた面直電流型の反強磁性交換結合3層磁気抵抗素子 (以下、3層膜ヘッド) は、スピンバルブ素子に替わる超高分解能再生ヘッドの候補として提案はされていたが、実験的な検証はこれまでなかった。
- 今回の研究では、強磁性体として高スピン分極率材料であるコバルト基ホイスラー合金の4 nmの薄膜を2 nmの銀薄スペーサ層を介して積層した3層構造において、強磁性層間に反強磁性交換結合が発現することを初めて見出し、これを用いた面直電流型3層磁気抵抗素子を試作した。素子の総膜厚は10 nmと、これは現行のスピンバルブ膜の半分以下の値であり、2テラビット/平方インチの記録密度の再生に対応できるサイズである。また、従来材料を用いた素子の約4倍の磁気抵抗変化量を得た。今回、実験室レベルで作製されたような反強磁性交換結合3層磁気抵抗素子を工業的に製造する技術が確立されれば、2 テラビット/平方インチを超える超高密度HDDのための面直電流3層膜ヘッドの実用化に近づくと期待される。
- この成果は、2011年10月31日付 (米国時間) の米国の応用物理学系速報誌Applied Physics Lettersの電子版に掲載される。