電気抵抗ゼロの原子一層の物質を世界で初めて実証

超伝導素子の高性能化に貢献

2011.11.02


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の研究グループは、シリコン表面の金属原子一層の物質が電気抵抗ゼロとなる超伝導特性を発現することを発見した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の内橋 隆 MANA研究者と中山 知信 主任研究者らの研究グループは、シリコン表面の金属原子一層の物質が電気抵抗ゼロとなる超伝導特性を発現することを発見した。
  2. 現在主流の半導体素子を用いた集積回路は動作時に膨大な発熱を伴い、省エネルギー・環境保全の観点から大きな問題となっている。これを根本的に解決する有力な候補として、超伝導を利用した演算素子が注目されている。また一方で、完全な情報安全性を保証する通信手段として超伝導素子による単一光子検出器を用いた量子情報通信の研究が進んでいる。今後の実用化への課題としてそれぞれ高集積化や高効率化などを進める必要があり、そのためには超伝導材料を微細化・薄膜化することが有効であると考えられる。
  3. 内橋らは、シリコン表面上に特殊な構造をもって配列したインジウム原子一層のみの物質に着目し、低温に冷やすことによって電気抵抗がゼロになり超伝導を示すことを世界で初めて観測した。さらにこの物質に流す電流を増やしていったところ、電流密度に換算して、最高で6.1√109 A/m2という大きな電流を流すことができた。超伝導の原理から、固体表面という極度に狭くかつ乱れの多い領域に超伝導電流 (=電気抵抗ゼロの電流) を流すのは難しいだろうと予想されていたが、この予測を覆すことができた。
  4. 本研究によって、超伝導材料を原子レベルの極限まで薄くできることを明らかにした。これにより、超伝導演算素子のより一層の微細化・集積化や、超伝導検出器の高効率化・高速化を追求する研究が加速するものと考えられる。
  5. 本研究成果は米国物理学会雑誌Physical Review LettersにEditor's Suggestion(注目論文)として近日中に掲載される予定である。

「プレス資料中の図2 : (左図)インジウム原子一層からなる固体表面物質に電極を取り付けて測定した電気抵抗(Zero Bias Resistance)の温度変化。挿入図はより広い温度領域での変化を示す。温度(Temperature)が2.8 Kで抵抗値がゼロに変化する。 (右図) 温度を変えながら測定した電流 (Bias Current)  - 電圧(Voltage)特性。電流が臨界電流値(Ic)に達したときに、超伝導が破壊されて、通常の抵抗をもつ状態にスイッチする。挿入図は、Icとそれから求められた臨界電流密度(J3D,c)を温度の関数でプロットしたもの。」の画像

プレス資料中の図2 : (左図)インジウム原子一層からなる固体表面物質に電極を取り付けて測定した電気抵抗(Zero Bias Resistance)の温度変化。挿入図はより広い温度領域での変化を示す。温度(Temperature)が2.8 Kで抵抗値がゼロに変化する。 (右図) 温度を変えながら測定した電流 (Bias Current) - 電圧(Voltage)特性。電流が臨界電流値(Ic)に達したときに、超伝導が破壊されて、通常の抵抗をもつ状態にスイッチする。挿入図は、Icとそれから求められた臨界電流密度(J3D,c)を温度の関数でプロットしたもの。