酸化物型燃料電池の長期安定性低下の原因を初めて解明

大規模スケール燃料電池のシステム設計実現に大きく貢献

2011.11.09


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS ナノ材料科学環境拠点と、クイーンズランド大学電子顕微鏡センター、大連工科大学、中国科学院大連化学物理研究所は共同で、独立分散電源用酸化物形燃料電池 (Solid Oxide Fuel Cell: SOFC) の長期安定性に甚大な影響を与えるクラスター構造を、透過電子顕微鏡観察とその結果にもとづく計算機シミュレーションにより初めて明らかにしました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) ナノ材料科学環境拠点(GREEN) 電池分野 ヘテロ界面設計グループの森 利之GREENリーダー、Zhipeng Li ポスドク 研究員と、クイーンズランド大学電子顕微鏡センター (豪州) John Drennan教授、大連工科大学 (中国) 、中国科学院大連化学物理研究所 (中国) は共同で、独立分散電源用酸化物形燃料電池 (Solid Oxide Fuel Cell: SOFC) の長期安定性に甚大な影響を与えるクラスター構造を、透過電子顕微鏡観察とその結果にもとづく計算機シミュレーションにより初めて明らかにしました。
  2. これまで、SOFCを用いた家庭用燃料電池の開発や大型発電用システム開発が活発に行われてきました。しかし、性能面では要求を十分に満たすデバイスが作製できる一方で、信頼性や寿命の観点で不安定要素が残り、実用化の大きな妨げとなっていました。
  3. 今回の実験では、高性能な試料と性能低下が大きな試料について、ナノスケールの欠陥構造を高分解能透過電子顕微鏡を用いて観察し、その特徴を計算機シミュレーションにより解析しました。その結果、性能低下の原因だと従来より指摘されてきた「酸素欠陥クラスター構造」とは異なる構造をもつ「新規な酸素欠陥クラスター構造」が材料内に生成し相転移を引き起こすために、燃料電池材料の信頼性や耐久性に悪影響を与えることを初めて突き止めました。
  4. この酸素欠陥クラスター構造モデルを用いると、これまで、酸化物形燃料電池において、謎とされてきた諸現象 (①なぜ性能劣化とともに結晶相転移が起こるのか ②なぜ信頼性は十分に確保されないのか、など) を合理的に解釈し、その有効な解決策を材料化学の面から提案し、独立分散電源用の高性能・高信頼性・長寿命SOFC材料の開発が可能になると期待されます。
  5. 本研究成果は、米国物理学会誌Physical Review Bの『Rapid communications (速報誌)』上において、11月7日公開されました。

「プレス資料中の図7 : C型希土類結晶構造に見られるダンベル型酸素欠陥クラスター」の画像

プレス資料中の図7 : C型希土類結晶構造に見られるダンベル型酸素欠陥クラスター